早稲田リーダーシップ開発プログラム(LDP)の授業も冬学期に入りPBLの授業「問題解決プロジェクト」がスタートしています。そして、まだ半分も来ていないのですが、自分の中では「今回のやり方は今後にも大きな意味を持ってくるかも」という感覚を持っています。その「今回のやり方」が凝縮されているのが下記の、PBLの課題です。
「実現したら自分や周りの人が幸せになると思える、あなたのマイノリティを社会に生かせるプランをPSSJに提案してください」
PSSJとは今回の提携企業であるパナソニック システムソリューションズ ジャパン株式会社様。そして上記の中の課題の特徴は「あなたのマイノリティ」というところにあります。
マイノリティデザインの考え方を取り入れる
この「自分自身のマイノリティな部分」(世の中の標準外な部分)からプロジェクトのテーマを見つけるというのは、澤田智洋さんの「マイノリティデザイン」の考え方を取り入れたもので、この21年夏学期から採用しています。人の持つマイノリティ性=「苦手」や「できないこと」や「コンプレックス」「障害」は実は社会の伸びしろなのだという考え方で、自分や自分の大事な人たちのそういう面をテーマにプロジェクトを起こして行けば、意義も大きく充実度も高い仕事ができる、と著書「マイノリティデザイン」の中で澤田さんは語っています。
この澤田さんの考え方を僕は大好きで、かつ本にはプロジェクトの要諦も書かれていたので、この考え方を早稲田LDPの問題解決プロジェクトの中に取り入れたいと運営チームの中で21年春に話しました。そしてとても良い反応を得たので、授業プログラムの中にさっそく組み込みました。
しかし夏の時点では、いきなり「マイノリティ」と前面に出しても学生がすぐ理解できず戸惑うだろうと考えて、PBLの課題の文言には「マイノリティ」という単語は入れず、
「「これが実現したら本当にうれしい」と思うことをビジネスとDXの力で実現するプランを提案してください。」
としていました。実際にそういうテーマをどうやって見つけられるか。というガイダンスの中に「自分のマイノリティ面を探る」ことを入れるという形を取ったのです。そして、一定の手応えを感じ、これは冬も「マイノリティ」面を入れよう、と決めていました。でも「マイノリティ」と前面に打ち出すまでは正直、考えていなかったのです。
でも、開発担当の学生アシスタントたちと話していたら、彼らの方から「マイノリティって言葉を課題に入れちゃった方が良いのでは?」と言い出しました。学生がそこまで積極的になるとは予想していなかったのでこれはうれしい驚きでした。また提携企業のPSSJさんの方々にそのことをお話しした時にも、全く自然に受け止めていただきました。といったことから、マイノリティを課題の中にコアコンセプトとして入れて、21冬の問題解決プロジェクトがスタートしました。
マイノリティデザインでリーダーシップを高める
そして今、確かにすぐ理解できない人もそこそこいるだろうけど、でもこれは思っていた以上に良いかも知れない、と感じています。それは二つの理由からです。
一つ目は、これによりプロジェクトがより「リーダーシップらしく」なる、ということです。僕らが育てようとしているリーダーシップには「倫理性・社会性」、言ってみれば「志(こころざし)」が重要な要素としてあります。単にビジネスとして成功するだけの案だとこのあたりが薄くなる可能性もありますが、自分自身が標準外で悲しいとかつらいとか思って来たことについての提案を考えることは、志を含み、社会におけるリーダーシップにつながる可能性が高まるように思います。しかもそれが自分あるいは班のメンバーのマイノリティ面に根ざしているというのは、魂の入った提案になる可能性をより高く持っていると思っています。
二つ目は、このプロセスにおいてそれぞれのマイノリティ面を共有することが、いろいろ意味を持ってきそうだと予感されることです。まずチーム内で自分の「弱さ」とか「外れているところ」をお互いに見せ合うことが、チームの質を一段引き上げるかも知れないと思っています。それだけお互いを理解して相互支援できるというのもあるでしょうし、心理的安全性(=ここでは何を言っても大丈夫だという感覚)が高まる可能性もあると思います。
また、マイノリティ面を共有することは多様性を実感することにもつながるでしょう。まずは、そういうことでそんなに苦労している人がいるんだ、と知ること。これ自体すごく価値があると思います。そしてプロジェクトを進めていけば、ただ「標準に合わせなきゃ」ではなく、いろいろなマイノリティの人が笑顔で過ごせるようにどうやったらできるのか、実感を持って考えることになります。
もっとも、「マイノリティ」をプロジェクトの課題にしただけでこれらがすいすいと得られるわけではないだろうな、とも思っています。まず、これまでかなり良い関係を築いている仲間といえど、切実なマイノリティ面ほど打ち明けるのは難しいでしょう。プライドの高い人には自分の「劣っている面」や「弱い面」を見せるのが難しそうでもあります。そして自己開示を受け止める側も、より高いレベルが求められます。
また、ビジネス界でこれまで手を付けられてこなかった領域に踏み込むことになりますから、解決策を考えるのも簡単ではなさそうです。
でも、幸いにして運営チームのみなさんや提携企業のPSSJのみなさん、そして受講生たちも、この新しい挑戦に積極的に取り組んでくれています。その中から困難を突破するヒントが見えて来て、これまでにはなかった成果が上げられるのでは、と思っています。
(文責:早稲田大学グローバルエデュケーションセンター 高橋俊之)