心理的安全性

心理的安全性をどうやって作る?|早稲田 リーダーシップ開発

最近話題の「心理的安全性」は、リーダーシップの授業でも重視していてクラスでもグループ内でも目指すように言うのですが、学生たちはよく、「心理的に安全」=単に仲良し と誤解します。しかしこれだと、異論や指摘したいことがあっても言わない「ぬるい場」になってしまい、成果はなかなか出ません。

心理的安全性=衝突安全性

そこで授業では「衝突安全性」という言葉を使って、「たとえ異論をぶつけ合っても、耳の痛いフィードバックをしても安全でいられる衝突安全性の高い場を作る必要がある。それが本当の心理的安全性」と話すようにしました。これで、理解はしてくれているようなのですが、実際にそういう場を作れているかというとなかなか難しいようだ、という話が、LDP統括責任者の日向野先生からミーティングの中で出て来ました。

これは、どうしたら衝突安全性を高められるかが分からないからなのだと思います。「とにかく慣れるしかない」とか「相手を信じてやるしかない」と思っても(別にそうしろと言っているわけではありませんが笑、)、やっぱり怖いでしょう。特にトライしてみて失敗すると「やっぱり無理」と思ってしまいそうです。社会人の中でも同様かもしれません。「なんでも言っていいよ」と言われて、実際に言ってみると、上司にこてんぱんにやられたり、同僚に不機嫌になられたりするので、やっぱりやめようと。

心理的安全性を高める2つのコツ

ここは、スムーズに心理的安全性(特に衝突安全性)を高めるコツや手法が欲しいところです。これは僕の場合ですが、主に二つのことをやってきました。いや正確には、この二つができている時はわりと心理的安全性の高い場が作れているように思います(できていない時もあります笑)。

一つは、提案や疑問、そして異論を大事に、かつポジティブに扱うことです。「大事に」とは、相手の意図をしっかりつかもうとすることです。たとえポジティブに反応しても、ちゃんと理解しようとしていないなと伝わると、発言しようという相手のエネルギーは減ってしまいます。忙しい時などついおろそかになってしまうのですが、大事だと思います。

次に「ポジティブ」。これを部下の提案や疑問、異論に対して行うのは難しいと思われるかも知れません。問題があったり、見当違いなものも(その方が?)多い場合は特にそうでしょう。でもそういうケースでも、何か良い要素を見つけてポジティブに反応するようにします。例えば一定の条件下なら使えたり、他のところで使えたり、使えなくとも意図は良かったり、見当違いでもとにかく声を上げてくれたことが良かったとも言えます。

自分がリーダーなら、このような発言の受け止め方をしていくこと、そしてメンバーにもそのような受け止め方を求めることで、場の心理的安全性(衝突安全性)は高まって行くのではないかと思います。自分がリーダーではない場合は、こういうやり方をしようと提案し自分が率先垂範してやってみせることで、徐々にそういう方向に持って行けるかもしれません。

それでもリーダーが心理的安全性の価値を理解してくれない場合については、また別の機会に触れます。ここで言いたかったのは「心理的安全性(衝突安全性)を高める方法が分からない」という疑問に対する一つの答えとして「衝突するような意見が来た時に、その良い面を見つけてポジティブに受け止めてみせる」ことを場作りのスタートにできる、ということです。つまり「何を言っても大丈夫」と思われるには、「何が出て来ても受け止める」ことをすれば良い、またそれが不可欠である、ということです。

ただ、それだとイエス、イエスと肯定ばかりで、目指す方向とは違うのでは?そもそも「何が出て来ても受け止める」側も「何を言っても大丈夫」にならないと、ダメなのでは?という反論がありそうです。

そこでもう一つのことが出て来ます。それは「ネガティブな反応を前向きに伝える」ことです。前述のように提案や異論があった際、ポジティブに反応しつつも、否定すべきことは否定する必要があります。その時に単に否定するのではなく、例えば「その案はAという点ですっごくいいよね(←先ほどのポジティブ反応)。ただBという点で課題があると思うのだけど、Bも大事だよねえ。Bもクリアする方法ないかな」と、ゴールを共有しつつ代案をみんなに求めます。この時「でも、完璧な方法じゃなくても出してもらえば突破口になるから、今みたいに出して欲しい」と付け加えると、未完成なアイディアでも出しやすいという意味で心理的安全性が高まります。

このように「ネガティブな反応を前向きに伝える」ことは、異論を唱える際のお手本になります。単に「今のやり方って問題あると思うんですよね」と部下に言われたら、上司(=現状の責任者)は思わずむっとしてしまいそうです。でももし異論が「今のやり方ってAという点ではとても良いと思うんですけど、最近Bも目指そうって方向に向かっているじゃないですか。それを考えると、今のやり方は課題があって、こうやったらいいんじゃないかと思うんですけど…」とか言われるとどうでしょう。上司も「こいつは現状のやり方の価値も、次に目指す方向も理解していて、主体的に動いているな」と好意的に受け止めて、前述のようなポジティブな反応がしやすくなるのではないでしょうか。

つまり、場の心理的安全性(衝突安全性)を高めるには、
・異論をポジティブに受け止める。
・フィードバック等で「前向きな異論の唱え方」のお手本を見せる。
ことが有効ではないかなと思っています。

ただ、これらが成り立つには、組織内で目標共有がある程度できていることが前提となるでしょう。そうでないと「なんでも」が各自の都合だけになって収拾が付かなくなる恐れがあります。目標共有の仕方については、また別の機会に。

(文責:早稲田大学グローバルエデュケーションセンター 高橋俊之)