早稲田LDP1Q終了:人を活かす競争への布石

早稲田大学リーダーシップ開発:人を活かす競争への布石

モメンタム・デザイン代表高橋俊之に開講中の早稲田大学リーダーシップ開発(理論とスキル)についてTV会議インタビューしました。前回に引き続き第2回のインタビューです。

(インタビューおよび記事執筆: モメンタム・デザイン メディアディレクター 海老原一司) 

振り返りを振り返る -生涯学習者を作る

海老原: 今回もよろしくお願いします。リーダーシップ開発(理論とスキル)は、一昨日(6/17)最終回だったそうですね。お疲れ様でした。さて、最終回はどのような内容だったのですか?
高橋: まず前提として、早稲田大学リーダーシップ開発では5限、6限の2コマ連続で授業をしています。その意味で6限が最終回っぽい構成になりますね。
6限は振り返りです。これまでやったことを思い出してもらいます。

海老原: 授業、研修の最後に「振り返り」を行うのは定番の構成ですね。振り返りに当たって、設計で意識した点、狙ったことなどはありますか。
高橋: リーダーシップ開発(理論とスキル)の授業ではZoomと並行してSlackを情報共有ツールとして使っています。第5回まで受講生毎回クラス後に振り返りをあげていました。最終回の授業の中で、その中の自分の振り返りを検索してもらいました。こういうことにはslackは非常に適しています。
これはつまり、「振り返りを振り返る」ことになります。そこで役に立つことを見つけられた学生は、毎回の振り返りをちゃんとやっておくとよいな。最後にまた役に立つな、振り返りをしっかりやることは重要だな。と学べることになります。なるべく多くの人がそうなるように最初の頃に「仕込み」をしておくのですけどね。

海老原: その視点は今まで考えたことがなかったです。つまり、過去の「振り返りの内容から学ぶ」ことに加え、「振り返る行為自体を学ぶ」、習慣づけることを狙っているわけですね。
高橋: そうですね。体験してみた人は続けようと思います。「振り返りをちゃんとするとよいことあるな」「得するじゃん」と思わせます。「味を占める機会」を作るわけです。
学ぶ姿勢、学ぶ方法を身につけさせ、生涯学習者にさせることを狙っています。
海老原: 「生涯学習者」は前回もキーワードでしたね。この授業はその名の通り直接的には「理論とスキル」を学ぶ。ただ、それだけじゃなく、学ぶ姿勢、学ぶ方法を身につける一石二鳥を狙っているわけですね。大学生のうちに生涯学び続ける姿勢、スキルを持っていると強いですね。

高橋: そう思います。なおここでいう「得する」は広い意味を持っています。「心が豊かになる」も「知的好奇心を満たす」も含まれます。これは最終回だけでなく全ての回、全てのコンテンツで意識していることで、言い換えれば「なぜこれを学んでいるのか?」が常に説明できるものとしてあります。それを感じると受講生も課題等に真剣に取り組み、またやった分だけプラスになって返ってくると感じるとさらに真剣に取り組むようになります。
その意味で、リーダーシップ開発(理論とスキル)の最終回は、大きく回収するタイミングです。理論とスキルは役に立つと思う。やってよかったと思う。だから、次の問題解決プロジェクトもちゃんとやっておこうと思うようになる。

リーダーシップ開発の学びをつなげる最終回

海老原: 生涯学習の話は、一石二鳥の2羽目、裏目標のような位置づけと思います。表側の目標であるリーダーシップ開発の学びについては、何を狙ったでしょうか?
高橋: これまで学んできたことを総動員して取り組む演習課題を持ってきました。「サボっている人がいるときにどうやって改めて巻き込むか?」「チーム全体のモチベーションが下がっているときにどう巻き返すか?」という2つのミニ事例です。
この課題は、それまで学んで来た論理思考、コーチング、リーダーシップの理論、全てが使えるようになっています。その前の回までは、スポーツの例でいうと、この回では脚力、この回では肩といった感じでパーツを鍛えている感じです。これに対して最後は、例えばピッチャーが実際にボールを投げる感じ。ここで、球のスピードも球質も変わったと感じられればベスト。

海老原: ということは、もしかして先ほど言われていた「毎回の振り返りを振り返る」課題は、ここへの布石でもありますか? 全部活用するために記憶の表層に持ってくるような。
高橋: その通りです。ただ「これまでやったことが全て使えるよ」と言われても、たくさん学んでいるし時間もそこそこたっているので、何もなしではさすがに思い出しきれないですよね。
海老原: 実際に思い出してくれましたか?
高橋: 予想していた以上に思い出し、かつ上手に使えていました。
海老原: パーツを持っているのとそれを適切に組み合わせられるのは違いますよね。
高橋: はい、それができていたのは早稲田生が優秀だからというのもあると多分に思います。しかも、こういうどこでもある事例は意外と深くて、そこまで自力で掘り下げることは普通、難しいので、いったん取り組んでもらって頭の中を耕した後で、こちらが解説します。しかし彼らはかなり自力で考えられていました。

最終回は、次期授業のはじまり

海老原: 早稲田大学では、今回が第1クォーターの「リーダーシップ開発(理論とスキル)」の最終回。第2クォーターは次の授業「問題解決プロジェクト」が始まりますね。理論とスキル受講者は、大半が次のステップとして問題解決プロジェクトを受講するのでしょうか?
高橋: 8割方は継続受講します。

海老原: リーダーシップ開発科目の中で「理論とスキル」と「問題解決プロジェクト」は、それぞれどんな役割で、どんな連携を意識して設計しているのですか。
高橋: リーダーシップは、経験なくして身につきません。そのための経験と振り返りから学ぶのが「問題解決プロジェクト」です。一方、以前にお話ししたように早稲田生は「納得してから取り組むのが好き」という傾向があるので、「理論とスキル」でそれを行います。どうせならとそこで、スキルを高めたり、「リーダー一人のリーダーシップ」から「全員発揮のリーダーシップ」へと発想の転換もして、いよいよ「じゃあ、実際に学んだことを使って実戦に臨んでみよう」と、これから始まるわけです。
海老原: 理論とスキルの最終回にはその橋渡しの意味もありますか?
高橋: その通りです。先ほどのミニ事例の内容は実は、問題解決プロジェクトでよく起きることです。また、そういうネガティブなことが起きると普通はモチベーションが下がってしまいます。このため今回は「ここから巻き返すのがカッコイイのだよ」と前振りをした上で取り組んでもらいました。問題解決プロジェクトの中で実際に問題に直面した時にこの時の内容も前振りも思い出せてもらえたら、と思っています。

振り返りコメントでわかるモメンタム

海老原: 早稲田リーダーシップ開発はまだまだ続きますが、一区切りついたところでいかがですか?
高橋: ホッとしたのと達成感の2つですね。
海老原: 達成感とはなんでしょう?
高橋: すべてのものがパズルのピースのように最後にがっちり合わさる。その合わさったものを受講生が理解してくれたことですね。ピタゴラスイッチが最後の倒れるところまでいったような感覚です。学生の振り返りコメントをみても、このクラスって理論とスキル以上のものがあったよねと思ってくれているようです。
海老原: 例えばどんなコメントがあったのでしょう?
高橋: 3名分のコメントを抜粋します。ちなみに、これは抜粋で元のコメントは数十行になっています。振り返りの分量からも、学生がクラスに深く入り込んでくれたことがわかります。

【抜粋1】「自分と違う意見を持つ人に対して身構えるのではなく、なぜそのような意見を持っているのか、背景にある考えはどんなものなのか、その意見の良いところはどこなのか、などとにかく知ろうとする姿勢を手に入れることができた。」
【抜粋2】「リーダーシップ行動を通じて、議論の質を向上させたり、円滑な議論構築に寄与できることを、経験をもって理解した。これまでシェアードリーダーシップの成功例を見たことがなかったので、この経験は衝撃的だったが、私の態度を変容させるだけのパワーがあった。」
【抜粋3】「リーダーシップは、自分が思っていた、チームを引っ張っていくというのと印象が違って、全員が発揮するべきものなのだということとして認識した。そのことで、自分の存在価値が高まり、相手に対してのリスペクトする気持ちが大きくなったと感じる。」

早稲田生は頭が良く行動力も自信もある人が多いだけに、自分一人でやってしまおうとする傾向があります。しかし、その優秀さや馬力を、周りの人を活かすことに向けたら、本人にとっても周りにとってもすごく良い結果につながっていくと思っています。そのためのマインドとスキルを彼らが身につけつつあるように思い、達成感を感じています。
海老原: 次はプロジェクトであると同時にビジネス・コンテスト(競争)ですね。それを同時に「人を活かす競争」にしてしまうのが狙いですか?
高橋: その通りです。彼らは競争も好きですから。そういう競争を思い切りやって欲しいです。笑