問題は、解決しようとしてはいけない!?|リーダーシップ開発

問題は、解決しようとしてはいけない!?|リーダーシップ開発

冬学期に開講している「リーダーシップ開発:授業外への適用」が、いよいよ授業外でリーダーシップを発揮してみる段階に入りました。ゼミ、サークル、バイト先などいろいろな場でリーダーシップを発揮して変化を起こす企画が授業に持ちこまれています。作戦会議ですね。いずれも普通だったら「まあこんなもんだよね」と現状に甘んじるか、「イマイチだよなあ」と批判するだけで行動はしなさそうな状況のリアル事例。それを変えてみようという問題意識も行動する姿勢も素晴らしいと思います。

ただ、そこで受講生に話したのは「問題を解決しようと思わない方がいい」ということでした。

問題解決は「ゼロ」までしか行けない

上のように書きましたが、問題というものは、当然ですが解決する必要があります。特に重要かつ緊急な問題を解決することは一刻を争います。しかし、重要だが緊急ではない問題の場合は「解決」しようとしない方が良いかも知れません。

ここでいう「解決」とは、マイナスの状態をゼロに持って行くことです。それを目指すことの問題はまず、ゼロまでしか行けない可能性が高いことです。 

例えば2020年に新型コロナウイルスが拡がり大学の授業がオンラインを余儀なくされた時、ただ問題を「解決」しようとしたら、対面で提供されていた授業やその他のサービスをなんとかオンラインで提供することに止まってしまいがちだったのではないでしょうか。しかしそれだとやはり対面に劣ることがいろいろ出てきてしまい、学生からも不満や悲痛な声が上がりがちだったのではないでしょうか。

では問題を「解決」するのではなく、どうするのかというと、問題をきっっかけに「飛躍」しようと考えます。上のレベルに飛んでしまう感じです。例えば新型コロナウイルス対策としてのオンライン授業を考える場合も、これをきっかけに次世代の教育を本格化するつもりで取り組んでしまうといった具合です。

実際、早稲田LDPにおいては、それまで難しいと考えていたオンラインでのリーダーシップ教育を、オンラインの特性を活かして設計しようと考えました。また立教経営BLPにおいては、それまでできなかった全国から(海外からも!)高校生を募ってオンラインで立教経営での授業を体験してもらうことを考え、実行に移しました。またこのどちらも、リーダーシップ教育において何が大事なのかを改めて考えて授業設計を練り直しました。

その結果、どちらも「これまでで最高」の授業になったというのが関係者の感想で、また21年度に対面に戻った時にも一段密度の上がったリーダーシップ教育をできている実感があります。またこういったことをあの危機下で実現できたことが、関わった全ての人たちに貴重なリーダーシップ体験になったと考えています。

問題解決より飛躍の方が多くの人を巻き込める

「問題解決」しない理由はもう一つあります。それは、「マイナスからゼロに持って行く」問題解決より、「飛躍を目指すよ」と言った方が、多くの人を巻き込めることです。

やはりゼロという当たり前の状態に持って行くことに人はあまりそそられません。例えば「みんながちゃんとしている」ゼミ/バイトを作ろうよ、と言っても、そのために頑張ろう、と思える人はなかなかいません。むしろ、それより大変なことであっても「新歓をコロナでつぶされちゃったのに過去最高の代だったと言われるようにしようぜ」とかのように特別感がある方が、人はワクワクして取り組みます。

先ほど紹介した早稲田LDPの授業でも「誰も経験したことのないことが起きている今だけど、最高のオンライン授業をみんなで作っていきましょう!」という投げかけに、教員や学生スタッフはもちろん、受講生たちも思い切り協力してくれていました。立教経営のBLP授業でも、あらゆるクラスで同じ現象が見られていました。

というわけで、一刻を争うのではない重要な問題はただ「解決しよう」というより、それを機会に「飛躍」を狙ってしまうと良いかも知れません。

(早稲田大学グローバルエデュケーションセンター 高橋俊之)