コロナ下の授業で得られた貴重な学び

コロナ下の授業で得られた学び(早稲田リーダーシップ開発より)

モメンタム・デザイン代表高橋俊之に早稲田大学リーダーシップ開発(LDP)に上半期を終わっての所感についてインタビューしました。「コロナ下の授業で得られた学び」とはなんだったのでしょうか。


(インタビューおよび記事執筆: モメンタム・デザイン メディアディレクター 海老原一司) 

改めて本質を考えることができた

海老原:早稲田大学リーダーシップ開発プログラムは春学期の理論とスキル、夏学期の問題解決プロジェクトが終わって上半期が終了ですね。改めて半年を総括していかがでしたか?特に、今年はコロナ禍でオンライン授業という特殊でチャレンジングな状況であったことが特徴だと思います。
高橋: 確かにチャレンジングな状況でした。でも結果的には、受講生にとっても運営側にとっても、貴重な学びを得られる学期になったと思います。
海老原: おー、そうなんですね。どんなふうに良かったんですか?
髙橋: 3つあります。

一つ目は、「自分たちがやりたいことの本質を改めて考えられた」ことです。
まず、オンラインになったことで、これまでの授業設計で対面だったらやれていたことがバッサリできなくなりました。例えば、全員発揮のリーダーシップを学ぶ意義を実感してもらうために、「ペーパータワー」や「マシュマロチャレンジ」といったワークを使っていました。A4紙を折って積み上げタワーを作ったりマシュマロと調理前のスパゲッティを使って同じように構造物を作るんですが、当然、オンラインではできません笑。とすると、マシュマロチャレンジで受講生に体験させたかったことは何か?削ってはいけないものは何だ?という本質を改めて考える必要があります。これがよかった。

海老原: なるほど。普段ならそこまで考えないで設計するようなワークも、いったんこのワークで何を学んでほしいか?という本質に戻り考える必要があったということですね。「いったん」というところがポイントかもしれませんね。当然設計当初は考えている。しかし、だんだん薄れて行きもするのが、オンラインになったことで改めて考えざるを得なくなったということですね。
高橋: その通りです。カリキュラムも研ぎ澄まされたものになりましたし、授業運営もベクトルを本質にびしっと合わせたものになりました。例えばコンテスト方式でビジネスプラン作りのプロジェクト(PBL)をやるにしても、コンテストは手段に過ぎず目的はリーダーシップ開発であることが運営陣内でも受講生にもかなり浸透させられたと思います。あと、それはオンラインの影響だけではなかったんですよ。
海老原: というと?
髙橋: 早稲田の場合授業開始が約1ヶ月遅れたことから、授業回数も減らさざるを得ず、春も夏も8回から6回になってしまいました(1回3時間)。この中でも同等の学習効果を生み出すためにはどうすれが良いのか、かなり考え、議論しました。
海老原: 8回→6回という変化は大きいですね!
髙橋: はい大きいです。もう本質にそぎ落とさざるを得ない。結果としてかなり筋肉質の授業になりました。
海老原: 学生の反応はどうでしたか?
髙橋: 大変だったけど、このくらいがだれなくて良い、と言っていました。笑
海老原: では今後も続けた方が良いと思いますか?
髙橋: いや、緊急事態だったから出来たことで、いつもこうではきつすぎるでしょう。平常時にはハンドルの遊びのような部分もあった方が良いと思います。

今だからやれる教育があった

海老原: では、2つ目はなんでしょう?
高橋: 2つ目は、今だからやれる教育をできたことです。
海老原: なるほど。コロナやオンラインがもたらしたのは制約だけではなかったということですね。どんなことでしょう?

高橋: コロナ禍は、行動の制約をもたらします。そして、人を不安にし、普段とは違う心境にします。それは普通、マイナスでしかありませんが、リーダーシップ教育の観点から見れば、リーダーシップの必要性と効用をリアルに体感できる状況とも言えます。
海老原: 確かに困った状況こそリーダーシップが必要になりますね。
髙橋: そうなんです。例えば先ほどの「ペーパータワーもマシュマロチャレンジもやれない」ので何をしたかというと「安心安全な場作り」というワークを行いました。特に新入生は例年のようにサークルやその他の対面で情報とつながりを得られない中、かなり不安を感じつつ授業に入って来たと思います。そんな中、新しいつながりを得られるとともに、自然体でいられたり、分からないことや違和感があればいつでも質問できたり、みんなが共通のゴールを持っていると感じられたりする場が得られればうれしいですよね。

海老原: 確かに。そういう場が得られたら1年生は特に嬉しいですよね。また本当は普段だってチームやクラスが「安心安全な場」の方が成果は大きくなると思いますけど、ちょっと照れくさくてそこまでする必要もないとか思ってしまうかも知れませんね。
髙橋: そうなんです。この状況下だったらそういうワークをやろうと言われると1年生だけじゃなくみんなすっと本気で取り組める。逆に、仮にオンライン版ペーパータワーがあったとしても「世の中が緊迫している中で大学はなんかのんきだな」とか感じてしまったかもしれません。だから、ペーパータワーの代わりを考える時に開発チームでは「今だからこそやれることをやろう」と言ってました。結果として、並行して走る全てのクラスを安心安全な場に最初からできましたし、全員発揮のリーダーシップを学ぶ意義も強く実感してもらえたようです。この「今だからやれる教育」というのはずっと意識し続けました。

海老原: この辺りは、「コロナ禍 × オンライン」セットでの制約条件と考えると良さそうですね。オンライン授業だから「安心安全な場作り」が良いわけではないですよね。
高橋: そうですね。仮に授業がオンラインでも、サークルもバイトもできる状態だったら状況は違いますね。コロナ禍の方が影響が大きい。人はなくなってから大事なものに気づきます。その、普段はあることが当たり前になっている大事なものを、本当に大事にする機会になったと言えるかも知れません。コミュニケーションとか人とのつながりとか。また、それを守るのもリーダーシップの役割だと学生が感じてくれていればうれしいですね。
海老原: そうですね。また「当たり前だと思っていたものが実は当たり前でない」という経験は、学生の今後にも影響しそうですね。対面授業が出来るようになっても、もっと後でも。
髙橋: 僕もそういう気がします。今回のことが「みんなで動いて不可欠なものを絶やさずにいられた体験」として時々思い出されていくと良いなあと思っています。

目標を掲げることの重要性が伝わった

海老原: 3つ目の良かったことは何ですか?
高橋: 3つ目は、目標を掲げることの重要性が伝わった、正確には伝わった「と感じている笑」ことです。でも、これは大事なことだし、伝わったと本当に思っています。例えば今期、授業のオープニングスライドに「誰も経験したことのないことが起きている今だけど、最高のオンライン授業をみんなで作っていきましょう!」と毎回表示していました。ちょっとずつ背景の色が変わったりしながらね。
 これには強い想いがあったんです。こういう時は攻めなきゃいけないと思っていました。「対面の授業はできません、すみません、でもオンラインでやれるだけやります」じゃなくて、「最高のオンライン授業」を「みんなで」作って行きましょう!と掲げたのはそういうことです。
海老原: 単にやむをえずの、質はちょっと落ちる代替手段じゃないと。でも勝算はあったんですか?
高橋: はい。って、もちろん初めてのことなんでどうなるか分からないんですけど、こういう目標で攻めに行ってみんなで力を合わせれば、どうなろうとリーダーシップについては最高の学びを得られると思っていました。
海老原: 力を合わせられるという確信はあったんですか?
高橋: これも確信はなかったですけど、少なくとも普段よりむしろ力は合わせやすいだろうと思っていました。人は平時よりも危機的状況の方が力を合わせますよね。平時だと「うーん、かったるいな」とか「他で忙しいし」と思う人も、危機的状況では「なんとかしなきゃ」と疑問なく思うので。
海老原: 確かに力を合わせる必要性は感じますよね。実際にそうできるかどうかは状況によりそうですが、、、そうか、そこで目標が大事なんですね。
高橋: そうなんです、とにかく学びを止めない!リーダーシップが思い切り学べる授業をする!と。そして「そのためにはみんなの協力が不可欠なんだ」と言ったら、みんな協力してくれます。例えば運営側がzoomの使い方に不慣れで時間がかかっていても誰も文句なんて言わないし、通信不良で落っこちてしまった受講生をクラスメートが助けたりしてくれます。

海老原: 一緒になって運営しているみたいですね。
高橋: まさにそうです。そしてもちろん学びの方でもすごくて、とにかく受講生が手を抜かないんですよ。例えばコンテストとしては勝負が決まっていても「全班最終提案を作ってね」と投げ掛けたら、みんながっつりやってきていました。また最後はそのプロセスを将棋の棋士のように振り返って「ここが良かった」「ここはこうすれば良かった」とやったんですが、真剣そのものでした。
海老原:「振り返りは収穫だ」といつも言われていますからそこが重要なんですよね。
高橋: そう、重要なんですが、油断すると「終わったー!」と気が抜けて雑談になってしまうこともあるんですよ笑。でも、そうなっていなかった。徹頭徹尾リーダーシップを学んでくれていました。授業終了後の振り返りでも、単位だけ考えればそんなに書く必要はないのにびっしり書いていて、班のメンバーや教員TACAにもていねいなメッセージを書いてくれていました。
海老原:そういうことが起きたのは、やはり目標がポイントで、受講生にもその目標を共有していて、運営側が挑戦して行く姿勢を見て受講生も乗ってきてくれた、ということですね。
高橋: そう思います。最近の若者は冷めているとかいう人もいますが、全然そんなことはないと思います。そうでなきゃ「鬼滅の刃」とかヒットするわけないですからね。見ているだけじゃなく自分もやりたいと思っている。そのスイッチを入れるのが、価値ある目標と仲間だと思います。