「早稲田生のハートに火をつけること」は事前に設計できるのか?

「早稲田生のハートに火をつけること」は事前に設計できるのか?

モメンタム・デザイン代表高橋俊之に開講中の早稲田大学リーダーシップ開発(LDP)「問題解決プロジェクト」についてインタビューしました。
(インタビューおよび記事執筆: モメンタム・デザイン メディアディレクター 海老原一司) 

「やれるかどうか」より「どうしたらやれるか」

海老原: 先週からスタートした「リーダーシップ開発:問題解決プロジェクト」ですが、Day2は教材を見ると、かなり盛りだくさんですね。クライアントであるセールスフォースの分析と、課題のポイントである「働き方」について全体像把握、そこからテーマ設定まで一気に行くんですね。これは何か意図がありますか?
高橋: ここは設計として狙ったというより、新型コロナの影響で授業回数が8回から6回に減ってしまった影響です。笑 通常は2回でやるところを1回に圧縮しました。しかも元々8回でも短いんです。早稲田リーダーシップはクオーター制を取っているので例えば立教経営BLPと比べると、授業時間は同じなんですが授業期間が8週対14週とかなり短くなります。調査とかは宿題としてやってくるので、この週数の違いは大きいんですが、6週になってさらにきつくなりました。
海老原: それでやれるんですか?
高橋: 「やれるかどうか」(Yes/No?)、というより「どうしたらやれるか」(How?)と考えました。ちょっと話が逸れますが、新型コロナ対策でいろいろなことが出来なくなっていますよね。こういう時、「やれるかどうか」と「判断」から入ってしまうと、「やれない」となってしまうことがものすごく多くなると思うんです。でも「どうしたらやれるか?」から入ると、本当に大事な部分を確認したり、障害を乗り越える案の提供を求めたりして、やれる可能性が上がります。どうしても無理な場合もあるでしょうが、最初から判断してしまうよりずっと少なくなると思うのです。
海老原: なるほど。やれるようにするためにどんなことをしたんですか?
高橋: 例えばクライアント(セールスフォースさん)にどんどん聞くように、と言いました。ありがたいことに各班に1名、メンターさんを送ってくださったので、聞きやすいんです。
海老原: オンラインだとそれはやりやすいかもしれませんね。大学まで足を運ぶとなると難しくても。
高橋: そうなんです。だからそこでいろいろ聞いてしまえばいい。ただ聞いたことそのままだと相手が知っていること以上にはならないけど、もらった情報の意味を自分で考えたら、彼らならではの視点が加わって価値が生まれるはずなんです。
海老原: 中にいると気付かないことってたくさんありますよね。実は。
高橋: そうなんです。また、数年の差でも学生からの視点は違うのでおもしろいですよ。

同じ道具を以前と違う切り口でもう一度使わせる

海老原: なるほど。そんな中、今回の教材に込めた想いはなんでしょう?
高橋: 一言で言うと「リーダーシップ開発:理論とスキルでやったことをじゃんじゃん使えよ」ということです。
例えば理論とスキルで「私のオススメ」という課題をやりました。これは自分が気に入っているものを人に勧めることで説得の本質を学ぶ課題です。今回はセールスフォースの全体像を掴むところで「セールスフォースを誰かにオススメするとしたらどう伝える?」とスライドに出しました。
海老原: 1ヶ月前にやったことを、違う場面でもう一度使うわけですね。
高橋: はい。人は1回学んだだけでは習得できない、というのが根底の考え方です。どんどん先に進んでいくだけじゃ身につかないと考えています。
海老原: また「これを使うように」と、かなり具体的に示しているんですね。
高橋: はい。論理思考やリーダーシップの要素の場合「どこでどの技術を使うか」自体がなかなか気がつきにくいので、最初は「これを使おう」と具体的に示すことが多いです。もちろん自分で気がつけるようになってもらいたいので、次は明確には示さないで、この道具を使うのを察してくれという課題になるでしょう。そうやって、徐々に踏み台を低くしていきます。
海老原: あと、先ほどの「セールスフォースの全体像を理解するのに私のオススメを使う」のは、理論とスキルと違った切り口の使い方ですね。この道具の選び方、使い方はひたすら総合問題を解くだけでは身につきにくいかもしれないですね。
高橋: そうなんです。「説得」の時に学んだポイントを分析(をまとめる)時に使うわけですから、自分で気がつくのは難しい。でも、考えてみれば「(強みの)分析のまとめ」は「オススメする理由」を力強く語る時と同じになりますよね。何がそれ「ならでは」の良さなのか、相手がイメージできるように、そそられるように語れたら、かなり咀嚼できていることになる。
海老原: また学んだことはそういうふうにいろいろ応用できる、学んだそのまま使うばかりじゃない、というのも学んで欲しいことですか?
高橋: その通りです。あらゆることから他にも応用できるような学びを抽出できるようになったらすごく強いですからね。

最も学びが深まる「歩幅」を設計する

海老原: 「リーダーシップ開発:問題解決プロジェクト」Day2を終わって事前に思っていた通りだったところ、逆に思ったとおりではなかったところはありますか?
高橋: 両方ありますねえ。まず、前回授業からの短い間にも早稲田生はかなり分析をできるんだ、というのは予想通りというか予想以上でした。また「私のオススメ」のように学んで来たことを活用するよう示して、できていた部分も多くあります。
海老原: 思った通りでなかった部分はどんなところですか?
高橋: 主に二つあります。一つは「やっぱり自分たちで考えちゃうな、もっと聞けばいいのに」という部分です。せっかくメンターさんがいらしているのに、時間が限られているのに、自分たちだけでがんばって考えちゃう。良いところでもあるんですけど、もっと人を活かすことをして欲しいので、ワークの際に「クライアントさんへの質問の時間」とか来期は明示した方が良いかもしれない、と思いました。
海老原: なるほど。メンターさんはそこでじれたりしなかったんですね。
高橋: そう、そこは大事なところで、ちょうどよく待っていただいたり介入していただいたりしていたと思いました。質問されていないのにレクチャーが始まってしまうと受講生は思考停止してしまいますから。
海老原: もう一つは何ですか?
高橋: テーマ決定、自分たちは「働き方」のどの領域の解決に取り組むか、というところなんですけど、ここに、理論とスキルでやったことをもっと活かせるようにガイドしてあげた方が良かったな、ということですね。議論がぐるぐるまわっているグループがけっこうありました。
海老原: 「テーマ決定」って元々時間かかりがちなところですよね?
高橋: 確かにそうです。でも、理論とスキルで「合意形成の仕方」を扱っていたのだけど、それを使っていなかった。先ほど言った「一度学んだだけでは使えない」というのがまさに起きていました。
海老原: ここは明示で「理論とスキルでやったよね」と示していなかったんですね?
高橋: やっていませんでした。理論とスキルでその回の受講生の振り返りを見た時にものすごく印象に残っていたようだったので今回リマインドはしなかったんですが、やはりもう一度確認することが必要だったと思います。
海老原: その辺、どこまでヒントを出すか、迷ったりしますか?
高橋: 迷うこともよくあります。繰り返しとかスモールステップは大事なんですが、授業回数も他の科目でその受講生に関われる機会も限られています。リーダーシップ開発のプログラムを「卒業」する時には自力で使えるようになっていて欲しいと思うので、「歩幅」の設定は試行錯誤です。

「ハートに火をつけること」は設計できるのか?

海老原: 「リーダーシップ開発:問題解決プロジェクト」Day2から次のDay3にかけて重視したことはなんですか。
高橋: 一番意識したのは、早稲田生のハートに火をつけることです。教育効果は「よいコンテンツ × やる気」で生まれます。もちろんコンテンツにも気を配りますが、受講生のやる気がどれだけであるかは、ものすごく結果を左右します。

海老原: 「やる気」が重要なのはわかりますが、授業の設計としてそこまで考慮されることは少ないように感じます。先生任せというか。
高橋: そうですね。そこで先生による差が出てしまう、という話は高校の先生からもよく聞きます。
海老原: 今回はどういうふうにしたんですか?
高橋: 「きみたちがやっていることはかなり大変なことなんだ」と伝えるようにしました。
海老原: 普通、逆ですよね。笑
高橋: そうですね。「大丈夫だ。そんなに大変じゃないし楽しいからやってごらん」とか。でも早稲田生の場合は、逆の方が燃えると思っています。「普通じゃできないけど、これができたらすごい。私はきみらだったらできると思う」と講師から言われると、彼らのプライドに火が付く、というのが僕の仮説です。
海老原: それって講師やTAにどう伝えるんですか? スライドにそのまま書いてあると受講生はしらけますよね。
高橋: パワーポイントスライドのノートにある「ティーチングノート」に書いておきます。まず「目的・ゴール」。このスライドを伝え終わった時に受講生がこういう状態になっていること、例えば「燃えてくる」とかですね。笑 で、必要に応じて話す内容の具体例を入れておきますが、それはあくまで例で、講師やTAが一番やりやすいやり方で目的・ゴールを果たす話をしてくれています。
海老原: それは講師やTAの側のレベルもかなり高い必要がありますね。「燃えよう!」と言ったからって燃えるわけじゃないから、自分が言うのだったらどういうことを言うと相手が燃えるのかを考えるわけですよね。
高橋: そうですね。でも、それを十二分にやってもらえていると思います。