学生も大学も元気になる秋学期にするに

学生も大学も元気になる秋学期にするには(リーダーシップ開発より)

早稲田大学、立教大学では上期の授業が終了しました。モメンタム・デザイン代表高橋俊之に上期授業終了を受けて下期(秋学期)の大学の授業のあり方について聞きました。


(インタビューおよび記事執筆: モメンタム・デザイン メディアディレクター 海老原一司) 

オンライン授業の満足度が高いからといって安心ではない

海老原: 前回のインタビューでは早稲田大学での授業について、「貴重な学びが受講生も運営側も得られたと思う」と言われていましたね。また立教での授業も満足度が高かったと聞いています。
高橋: はい、おかげさまで学生から高い満足度を得ることができました。また自分たちとしても手応えを感じました。確かにいろいろ制約はあったのですが、オンラインだから、この状況だからできることを活かして、過去最高の授業をやれたのではないかと感じています。

海老原: すごいですね。そうすると下期も全面オンラインになったとしても、十分に対応できる、という感じでしょうか?
高橋: それは別問題、というのが今回の難しいところだと思います。確かに受講生は僕らの授業を高く評価してくれました。しかし同じ授業評価アンケートで聞いた「後期はどんな授業形態を望むか」という質問に対して、僕らの授業のようなインタラクションが多く人の内面に踏み込む授業ほど「対面でやって欲しい」と彼らは答えています。大教室での一方的な授業はオンデマンドの方が良いと答えている人が多いのですが。
海老原: なるほど。しかしグループワークや対話の多い授業ほど新型コロナウイルス的には危険ですね。
高橋: そうなんです。だから全部または多くの授業回はオンラインになる予定なんですが、学生の心の状態を考えると、それは前期以上にタフになる恐れがあると心配しています。また前期に成功した方法をそのままやれば良いというわけではないと思っています。

改めて大学に求められているのは授業内容だけではない

海老原: どういうことでしょう?
高橋: 一言で言うと「大学、あるいは大学生活に求められているのは授業内容の学習だけではない」ということだと思います。特に新入生の場合、大学生活はそれまでの学校時代とは違う新しい世界に入ることを意味します。そこにはいろいろな出会いがあり、自由と裁量をある程度得ていろいろ試して成長できますし楽しみでもあるでしょう。また自分自身についても知る機会でもあります。全てを大学が提供しているわけではないですが、大学がその場やきっかけになっている部分は多いはずです。
海老原: その価値は特に新入生に大きいですね。
高橋: はい。でも、2年生以上でもいろいろな変化があります。2、3年生ならゼミに入ったり部活やサークル等の場で先輩として活動し始める変化がありますし最近は留学する人も多くいます。新型コロナウイルスの影響でそういう機会が著しく制限されてしまっているので、成長の機会も学生が楽しみにしていたことも、かなり減ってしまっていますよね。それが半年続いて、夏休みも自粛によって不完全燃焼で、後期に入ったらまたオンライン、というのは、4月の時点とは違う「きつさ」があると思うのです。

海老原: 確かに、私の学生時代を振り返っても授業は大学の一部という感覚でした。しかし、現実的にオンライン授業でやっていくしかないわけですよね。どうしますか?
高橋: 確かにオンライン授業は避けられないでしょうし、留学やバイトの代わりまで僕らが提供出来るわけではないですね。でも、大学(生活)が学生にこれまで何を提供してきたのか、大学生が今何を必要としているのかを考えて、やれることからやっていくことはできると考えています。
海老原: 例えばどんなことですか?
高橋: まず新しい人間関係を構築したり、新しい世界に触れたりする機会を提供することですね。これらはコロナがなければサークルやバイト等で自然に得られていたのかもしれませんが今は普通より難しい。そこで授業がある程度その役割も果たすべきではと思っています。あと、僕らが担当しているリーダーシップ開発の授業の特性上、深い人間関係を構築したり、自分自身について掘り下げたりする機会の提供もできるのでは、と考えています。
海老原: なるほど。私は理工学部でしたが研究室に入るまでは大人数で一方向の授業ばかりでした。確かに、人間関係構築、チームワーク、自分を知る、などはすべて授業以外の活動で学んだ気がします。でもそれがやりにくい今、授業でも補完しようということですね。

元気になるクラス設計

海老原: それは実際、どういう授業設計になりますか?
高橋: まず、特に最初の方にあえて時間を割いて、受講生同士が互いに関わって打ち解けるように設計します。これは前期もある程度意識していたことなんですが、蓄積出来たノウハウも活かし、後期はさらにやるつもりです。例えば30人のクラスで全員が全員をよく知り、打ち解けるくらいになったスゴイですね。
海老原: それはサークルでも難しいかも。笑
高橋: はい、そう思います。普通、気の合いそうな人としか頻繁には関わらないですからね。しかしそこに工夫を組み込むことで、最初は苦手だと思っていたタイプの人とも仲良くなったり、内向的な人も普段以上に人と気持ちよく関われるようにしたりできるのでは、と考えています。
海老原: 普段関わらない人と関わるようになれば、それ自体が世界を広げることになりますね。
高橋: 確かにそうですね。海外旅行や留学のように遠くに行くことは難しくても、実は身近にあるのに理解していなかった多様性を知り、それに親しむ機会にできたら、と思います。

元気な秋学期はみんなで作る

海老原: 「新しくて深い人間関係づくり」等の他に意識していることはありますか?
高橋: そういう場を学生に一緒に作ってもらうことが大事じゃないかな、と思っています。
海老原: それはリーダーシップ開発の授業だからですか?
高橋: それはもちろんあります。そういう場を作って行くこと自体がリーダーシップ開発につながりますから。でも、それだけじゃありません。人は与えられているだけよりも、自分も作り手になった方が幸せになれる、ということからですね。特にみんなで力を合わせてそういう場を作り、自分も欠かせない役割を果たしたと思えれば、充実感は大きいんじゃないかと春学期の学生たちの様子を見ていても思いました。
海老原: それは大学が自分たちの仕事を学生たちに押しつけることとは違うということですね?
高橋: そうですね。この形の方が結果的に学生は大きなものを得られるという点で違うと思います。大学は大学で自分たちがやるべきことで全力を尽くすわけですが。
海老原: また、学生がそういうふうに学びの場作りに能動的に関わるようになったら、先生達も元気百倍かも知れないと思いました。
高橋: その通りだと思います。実際、授業の中で学生が(いろいろ残念な想いはあるだろうに)一緒にクラスを作ってくれた時、僕らはとても大きな元気をもらいました。またそのことを最後に「良かった」と異口同音に振り返ってくれたことは次への大きなエネルギーになっています。そうやってみんなが元気になっていくような授業を、後期もやりたいと思っています。