【論理思考実践事例】製販あつれき問題を解決する

【論理思考実践事例】大組織の意思決定を速くするには

論理思考実践事例では、過去に受講生が企業研修や授業に持ち込んだリアルな課題を取り上げます。実際の仕事にどうやって論理思考を活かせば良いか事例を通して学んでいきます。

今回の論理思考事例は、「大企業の意思決定を速くするには」です。

【論理思考実践事例】大組織の意思決定を速くするには

論理思考講座の受講生で食品メーカーで大アカウント一社を担当するTさんは、役員まで一段ずつ上がっていく自社内の意思決定に大きな問題を感じています。状況を整理した結果、部長のところでのロスが大きいことがわかりました。役割が事業部長とかぶってしまっていますし、顧客について理解していないのでロスが大きくなっています。ルール上は部長が入る必要はありません。そこで意思決定スピード&効率アップのため次のいずれの方向で動くべきか考えることにしました。

  1.   部長に外れてもらう
  2.   部長に顧客を理解&付加価値を出してもらう

論理思考のポイント:実現性で選択肢を落とさない

では、どのように決めましょうか。こういう時まず、実現性(実際、それができるのか?)で厳しいものを落としている人をよく見ます。しかし、その選択肢が大きな前進につながるなら、実現性がかなり低くない限り「なんとか実現する方法はないのか」を考えるべきです。

そのことを考慮に入れた結果、Tさんはまず1の「部長に外れてもらう」方策を考えるべきだと判断しました。Tさんから直接、事業部長に持って行けるようにする形です。主な理由は、スピードアップする上ではそれがずっと望ましいこと、そして部長はそれ以外にもやるべきことが多くて多忙であることです。しかし、実現のためにはクリアしなければならない課題があります。

ホンネを踏まえた論理思考課題設定

おそらく多くの方が想像したように、ここでクリアするべき課題とは「いかにして、部長にOKと言ってもらうか」です。ここでは、如何にホンネを踏まえた論理思考課題を設定できるかが鍵です。

Tさんは簡単には行かないと感じていました。自分を部長の立場に置いてみれば、OKと言わないのは当然でしょう。大アカウントが自分の傘下にあることは組織内での力を高めますし、有能なのだろうと周りに思わせます。逆にそれをはずされることは、何か問題があったとか、負け組に入ったと思われる恐れがあります。周りがそう思わなくとも、本人にはそう感じられてしまいます。

加えて部長は部下がそういったことを口にするのに非常に敏感だそう。これも珍しいことではありません。酒の席等で組織のあり方や上司についての話が出たのをどこかで聞きつけ、その人に不利な査定をするとか、場合によってはどこかに飛ばしてしまう、ということもよく聞きます。

こういったことに対して「上の方は私利私欲や自分のメンツばかり考えている」とか「お客さんのためにどうなのか、会社のためにどうなのかは二の次だ!」とよく言われます。その通りです。しかし自分が損をしたり、傷つくのは誰でも嫌なものです。上に立つほど失うものが大きくなっていますから、なおさらそうとも言えます。

といったことから、部長の説得は次のような要件をクリアするのが望ましいでしょう。

部長が納得する条件を構造化する

論理思考を使ってTさんと僕が考えたのは、この話を次の状態で持って行くことでした。

  • 部長が受け入れやすい内容になっている
  • Tさん発だとは見えないようになっている

しかし、そんなことができるんでしょうか? どう思いますか? 2の方は、Tさんが事業部長ともやりとりがあるようですから、そちらから言ってもらうことができれば行けそうです。しかし1の方は…確かに達成できれば説得の可能性は上がりますが、どうやってそんなことができるのか?

論理思考を使って少し分解してみましょう。部長が注目すると想定しておくべきは、次の2つです。

 a.自分の権限が減らないこと
 b.自分の評価が下がったと見えないこと

aについては他の大きな権限を増やせるならそれでよし、しかしそうでないなら、今の中で何か方策を考える必要があります。難しくはありますが、「これさえ見つけられれば突破可能」とわかっていると、頭がものすごく回転してアイディアが浮かぶことはよくあります。これは論理思考の特徴である「何を考えるべきかから考える」ことのメリットです。

bについては、次の2つが明らかに見えれば問題ないと考えられます。

  •  部長の能力が問題で、はずれるわけではないこと
  •  部長は他の重要な仕事に特化するといったこと

事業部長にその内容と言い方を考えてもらえれば、あるいはこちらから提案できれば、クリアできると考えて良いでしょう。

論理思考を使った解決策

論理思考を使って「考えるべきこと」を踏まえてTさんと僕で考えたのは次の三つを組み合わせる作戦です。

1.事業部長を説得して、事業部長から部長に話してもらう

Tさんが表に出ないためにも、職制という意味でも、事業部長から話してもらいます。幸いTさんと事業部長のコミュニケーションは密に取れているとのこと。また、こちらの話も理解してもらえそうとのことです。事業部長から役員に承認を取ってもらえればさらに強力です。

2.顧客からのスピードアップ要望が強いと理由に入れてもらう

「顧客からの要望がある」ことは、変更の必要性を強くアピールします。またTさんが部長の反感を買う恐れがさらに減ります。お客さんから事業部長にそういう話をしてもらうのは一つの手ですが、それでなくとも、「例えばこういうこと(例を挙げる)があったのはスピードアップの必要性を示している」と事業部長に話すことができます。そこから事業部長が「事実上」スピードアップが求められていると判断してくれればよいわけです。

3.部長が外れるのは相談だけ。報告(と承認)はそのまま

権限的にもイメージ的にも、いきなり完全に外れることは部長の抵抗が大きいと思われます。しかもそれを補える案件はありませんでした。そこで、大きく時間をロスしている相談のみ、事業部長に直に行ってよいとしてもらう線を考えました。事業部長から部長に話してもらう時には「これまでの相談の時間を○○(部長が得意&重要な他のこと)に向けて欲しい」という感じになるとベストです。

※日経BPnet連載「ロジカルシンキングの達人になる」2011.11.25、2011.12.09記事から再編

(文責:早稲田大学 グローバルエデュケーションセンター(GEC) リーダーシップ開発プログラム 副統括責任者 高橋俊之)

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