論理思考実践事例では、過去に受講生が企業研修や授業に持ち込んだリアルな課題を取り上げます。実際の仕事にどうやって論理思考を活かせば良いか事例を通して学んでいきます。
今回の論理思考事例は、「製販あつれき問題を解決する」です。
【論理思考実践事例】製販あつれき問題を解決する
本来、協力し合うべき関係のはずなのに仲が非常に悪い、というケースを時々見ます。そのような状況をどうやって改善していけばよいのでしょうか?今回はそういう事例を見てみたいと思います。事例は論理思考講座の受講生提供です。
相談したいのは在庫問題を製造会社(本社)と販売会社の間でどう調整すべきかです。(両社はグループ会社で、私は販売会社に出向しています)
本製品群は、3か月のリードタイムが必要です。お客様を3か月も待たせられないため、ある程度販売会社で在庫を持っていますが、高価なため、在庫数を絞る必要もあります。そこに先の震災があったため在庫を増やしたのですが(※)、思ったほど売れず適正在庫をかなりオーバーした状態になっています。(そこに私が本社から赴任)
このため一部の製品ではほとんど在庫を持てない状態になっており、ぎりぎりまで発注を抑え、短納期での納品をお願いすることになります。しかしそれでも、本社で必死の対応をし、いざ納品というときに、見込みに達しないため納品を遅らせて欲しいと依頼する事態が何度か起きています。
こういうことが度重なると、本社としては怒り心頭です。一方、販売会社の調達担当者も、なぜ本社は協力的でないんだと両者の対立関係が深まっています。また、急な受注があったときに在庫がなく、機会を損失することも起きています。
この状況をどう解決したら良いでしょうか?お互いの信頼関係・協力関係の再構築が必要と考えておりますが、国をまたぎ、言葉の壁もあるので、難航しています。
※ 本記事は2012年2月の日経BPNet記事を元に再編集しています。
アイデアを構造化する
先の問題について、他の受講生から次のような意見があがってきました。
「3ヶ月というリードタイムは短縮できないのでしょうか?」
「残念ながら標準的には無理なのです」「3ヶ月待つほど人気だとお客さんに楽しみに待ってもらうのは無理ですかね?B to Bだとそういうわけにもいかないか。」
「そうですね。競合もあるためお客さんを待たせるのは難しいです」「会社とか部門ではなく『人対人』の関係にできればギスギスした状態も多少やわらぐのではないでしょうか。一度会う機会を作るとか」
「近ければ顔を合わせ、酒を酌み交わし、お互いに腹を割って話す、といったことができるのですが…」「見込みの精度を上げることはできないでしょうか」
「見込みをどのように捉えるかですが….」
次々と対策案が上がり、検討がされているのを見ながら、ロジカルシンカーは次のようなことをします。
一つは、アイディアを図のように構造化して行くことです。こうして整理しておくと、何度も同じ話をしたり、どこかが漏れたりすることが減ります。また、出て来ていないところも見つけやすくなります。例えば上の話には「在庫を増やす」ことは出ていませんが「納期を短縮する」が出せると、その下の二つを見る内に「在庫を増やす」と出せる可能性は上がります。
構造から重要なポイントを見極める
もう一つロジカルシンカーがやるのは、重要点を見極めることです。実はこれが一番重要なところで、先の「構造化」は、重要点を見極めやすくするためにやっているともいえます。
ディスカッションの中では、あるメンバーが「販社側にて在庫による緩衝効果が発揮できないことが最大の問題になっているように見受けます。与信枠を…」と指摘していました。まさにその通りです。
図を改めて見てみると、現時点での重要点、つまり
- 短期的に実行可能で
- 効果が大きい
ところは、在庫増です。リードタイムを短くしたり、優れた商品を開発したりすることは短期的には難しいでしょう。腹を割って話すのはよいことですが、納期問題を直接解決するわけではありません。
一方、在庫を持てないのはルールの問題で物理的な制約ではありません。「商品によってはほとんどゼロに近い」という状態は、3ヶ月というリードタイムと販売の状況を考えると、かなり現場に無理がかかっています。震災というかなりイレギュラーな事態にも原因があることを考えると、通常とは違った対応も検討の余地はあるのではないか、ということです。
問題の本質を変える重要点
在庫薄な製品の在庫枠を増やすには、在庫過多になっている商品を集中的に売っていく、という手もあります。頑張っても売れないから苦労しているのでしょうが、ディスカッション内では、ここは重要なので集中して知恵を絞るべき、と指摘されました。
重要というのは、本社に対する提言をしていく上で不可欠という意味でした。というのも、今回の話の中では、本社での管理体制が一本化されていないために販売子会社が動きづらくなっている可能性が見られました。また、「そういうタイプの商品であれば、販社だけでなく本社で在庫を持った方が効率的では」というもっともな指摘もありました。そういったことを本社にもの申せるためにも、自分の側がやるべきことをやっていると見せることが重要、というわけです。本質的なところを変えるための重要点です。
最後に「人間関係や感情は無視してよい」ということではありません。関係修復は、それはそれで必要でしょう。ポイントは「在庫が持てない」状態を放置していては、現場のいかなる努力も徒労に終わる恐れがある、ということです。また、関係が悪化した最大の原因は管理システムにあって、それを変えることが優先である、ともいえます。
※日経BPnet連載「ロジカルシンキングの達人になる」2012.02.24記事から再編
(文責:早稲田大学 グローバルエデュケーションセンター(GEC) リーダーシップ開発プログラム 副統括責任者 高橋俊之)
(参考)関連記事まとめ
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