新しい場への入り方を考える|論理思考実践事例

新しい場への入り方を考える|論理思考実践事例

4月は異動、転居など、新しい場に入ることが多い月。うまくとけこめるだろうかとちょっと緊張している人もいるのでは。また、単にとけこむだけでなく、自分のスタイルはちゃんと通したいとか、それを新職場に広めてしまいたいと思っている人もいるかもしれません。このように新しい場に入って行くこと、どうやったらうまくやれるでしょう?というのが今回のお題です。論理思考を使って考えてみましょう。

※日経BPnet連載「ロジカルシンキングの達人になる」2009.04.17記事を再編集

やらなくてすむようにしてしまうのがベスト!?だが

実は僕自身、引っ込み思案で新しい場に入っていくことがけっこう苦手です。しかも自分なりのスタイルがあるので、まさに自分自身の課題でもあります(笑)。

ただ、僕の場合は、「苦手ならやらなくてすむようにすればいいじゃん」(一種のゼロベース思考)と、自分の活動の場(SCHOOL OF 未来図)をつくってしまいました。そこには事前情報を入手して合いそうだと思った人たちがやってくるので、初めて会う人であってもあまりそういう感じがしません。でもこれでは、今新しい場に入っていこうとしている人には全然参考にならないですね。

※ 「SCHOOL OF 未来図」高橋俊之が主宰していた大人の寺子屋

なので、改めて考えてみましょう。まずはSCHOOL OF 未来図のメンバーたちに「どうやってます?」と聞いてみました。すると、

「飲みに行く」「まずは空気を読む」「へたに自分を飾らない」「とりあえず誰かと仲良くなる」「自分の持っているもので役に立ちそうなことをぶつけてみる」「電話をがんがん取り次ぐ」…

などなど、他にもたくさん使えそうな策が上がってきました。ここはまだ論理思考をスタートしていないのですが、こういった具体的なことをいくつか出した上で考えるとやりやすくなります。

どんどん仕事したら疎まれた!?  

ここからちょっと本格的に考えます。というのも上の策がいつも使えるとは限らないし、自分に合うかどうかもあります。抜けているところや、もっといい策があるかもしれない。そういったことを後でチェックするために論理思考では「何から考えるべきか」をまず考えます。今回のケースだとまず押さえておきたいのは人が他人を受け入れるのはどういう時かでしょう。それが押さえられている策なら、使える可能性大です。

ちょっと自分で考えてみてください。一つだけでなく、二つか三つ考えてみてください。そのために、先に上げた具体的な対策が何を狙っているのかを考えてみるといいですね。数が多くなった場合は束ねてみてください。

↓ 考え中

↓ 

↓ 考え中

↓ 

↓ 考え中

では僕が考えたものを。一つには損得の面があると思います。

マネジャーなら「こいつ戦力になるな」と思えば得、逆なら損。よく気がつくので助かるとか、職場が明るくなるなんてのもあります。ややこしいのは、まっとうなことをやろうとしたら相手には損に感じられるというケース。たとえば仕事の出来るあなたが入ってきたことを脅威に感じる人もいるかもしれません。

二つ目はスタイル(やり方)の面

相手は新参者のあなたが「郷に入れば郷に従う」かどうか見ています。この要素は損得以上に強いこともあり、現状のやり方よりいい提案をしたら、喜ばれるどころか「よけいなことをするな」と言われてしまった、なんてこともあります。

三つ目のポイントはわかっているということ。

よくわからないものに対して人はマイナスに振れやすいもの。しかしわかっていれば「けっこう根っこは通じるものがあるよな」「そういうものが役に立つこともあるわな」となる可能性もでてきます。

人が他人を受け入れるとき

  • 得する。少なくとも損はない。(損得の面)
  • 郷に入れば郷に従っている。(スタイル/やり方の面)
  • わかる、理解できる

あれも、これも、それも満たす!

ということはまず、新しい場を知ることが重要になってきますね。特に、

  • どこに自分が貢献できるポイントがあるか(マイナス貢献にも注意)
  • その場のやり方はどうなっている?(その背景にある価値観や力関係含む)

というあたり。よくある「まず様子を見る」というのは正しいわけです。

さて、考えるステップを全部踏んでいては紙面(画面?)が全然足りないので、ここからはポイントに絞っていきます。

まず一つ目として、当初の目的を踏まえるとただ相手に合わせるだけではないということ。

それでは自分が疲れてしまいます。自分のやり方も通したい。そこで目指すのは、その場のやり方と自分のやり方の重なるところを見つけること。A or BではなくA and B。

たとえば新しい場では「形」にこだわるとします。一方、自分は「実質重視」で、意味のない形式は許せないというタイプだとしましょう。そこでまず「自分にとっては意味がない形でも相手に意味があるならそれは実質だ」という考え方をしてみる。でも形さえあればよいので最低限で済ます。たとえば自分には不要に思える、形だけの書類なら、中身は決まり文句でOK。表現とか考えるのに時間を使わないと。

二つ目は、個人の損得や感情をはずさないということです。優秀な人は「仕事なんだからビジネス優先だろ!」と思いがち。しかし現実には仕事が個人の損得や感情で動くことも多いもの。かといってそれに流されてばかりではまずいので、上と同様にやはり重ねる方法をさぐっていきます。たとえば優秀でやる気満々なあなたを脅威に感じる人がいるとしたら、その人を陰でサポートするやり方を考えてみる。短期的には自分の仕事をする時間が減っても長期的にはどこかで返ってきます。

手を打てるところは、思っているよりある

三つ目は複数のポイントを意識することです。

たとえば自分を知ってもらうのに、話をすることは誰もが思い浮かびます。でも、服装をはじめとする見た目で判断される度合い(第一印象の7割以上とも言われます)を意識できている人はまだ少ないよう。ある友人(女性)は、「地方に赴任した時、かちっとした服装を続けていたため、親しみを感じられないと遠ざけられてしまった」と話してくれました。それ以来、服装に「も」注意をしているそうです。逆に言えば、見た目でうまく表現をすることで、より自分をしっかり伝えられることになります。前述の「自分のやり方と相手のやり方の重なり」という意味でも、相手に配慮した服装であると同時に自分の個性を出す、といったことも可能です。

また「誰が伝えるか」というのでも複数ありえます。自分で伝えるのはもちろんですが、人に伝えてもらうというのもある。同じ内容でも言う人によって受け取られ方は違います。相手が信頼する人によって伝えられればそれだけよく受け取られるもの。そういえば最初にあげた具体策に「とりあえず誰かと仲良くなる」というのがありました。これは自分のことをいい形で伝えてもらう上でも、その場のことを知る上でも役立ちますね。

さらに考えてみれば、ここに上がってきたすべての注意点が実は複数のポイントを意識することになっていました。最初に見た、「人が他人を受け入れるとき」には3つポイントがありましたし、「自分のやり方とその場のやり方」「個人の視点とビジネスの視点」もそうです。これは実は論理思考の特徴です。

複数のポイントに注意を払うのは難しいので、つい人は一つのところだけに目が行きがちです。しかし現実は複数のポイントで成り立つメカニズムであることが多いもの。そこをがっちり押さえていこうというわけです。

さて、あなたの新しい場でのスタートはどんな作戦で行きますか?

(文責:早稲田大学グローバルエデュケーションセンター 高橋俊之)