「他者のリーダーシップ開発」のクラスで、良い目標設定は「見えている景色を変えてしまう」という話をしました。「目標設定・共有」はリーダーシップ行動の最小三要素の一つと言われるほど大事なのですが、意外とぴんと来ている度合いが弱い、という問題意識を持っていたためです。
美容と健康よりホノルルマラソンの方が良い目標?
例えば(リーダーシップの例ではありませんが)、Aさんは美容と健康のために毎日ジョギングしよう、と思っています。でも、なかなか続かないし、けっこう苦痛。そこで何か目標が欲しいな、と考えました。
月間100キロ? タイムの短縮? それとも走れる距離を伸ばす? どれも目標ですけど、走るのが別に好きなわけではないAさんは、あまりそそられないなあ、と思いました。
ところがある日Aさんは、ホノルルマラソンに参加した人の体験談を読んで「自分も出たいな」と思い始めました。別に走ることが好きだったわけではないのに「42.195キロ走り切れたら、やりきれる自分に自信がつきそう」「応援とかあって、普段走れないところで走れておもしろいかも」「どうせハワイ行きたいし」。やってみようか!
そう決意すると、これまでやらなきゃと思いつつ、さぼってばかりいた毎日のジョギングが全然違って見えて来ました。苦痛だけどやらなきゃならないことではなく、ぜひたどりつきたいホノルルマラソンのゴールへの、重要なステップに見えて来たんです。
そう、「ホノルルマラソンに出る」という自分にとって魅力的な目標が出来た結果、「見えている景色が変わって来た」わけです。
チームメンバーの見ている景色を変える良い目標設定
チームで何かをやっていると、人によってやる気に差が出てしまう、というのはありがちです。そんな時にも良い目標があると役立ちます。
それは「みんなが『それいいね!』と感じるようなエキサイティングな目標を設定する」ことと思われがちですが、実はもっと広く使える手があります。事例で見てみます。
先日ご案内した「立教経営学部1day Passport」(経営学部1年生360名が授業で学んだことを教えてしまうオープンキャンパス)、今でこそ2ヶ月前に定員の400名に達してしまうようになりました。でも、初めて行った2013年度には申込者がようやく1班に1人いる程度くらい少なすぎて、大学生が高校生役にまわらなければならない事態になりました。
しかしそれではせっかく高校生に教えようとがんばってきた受講生たち(大学生)のモチベーションがだだ下がりになってしまうとSAたちは心配していました。そこで次のように話そうと考えました。
「きみたちの役割はものすごく重要だ。参加する高校生達がリラックスして取り組めるように、きみらが行く班の大学生たちが本気で授業をできるようにするには、きみらの役割が欠かせない。つまりきみらはチームから外れるのではなく、より大きなチームの中で、共通の目標に向かっていく仲間だ。
この初年度うまく行ったら、来年はもっと多くの高校生がきっとやってくる。きみらはパイオニアとしてものすごく重要な役割を担うんだよ。」
結果として、高校生役にまわった学生たちもその役割を全うしてくれました(立教生はこういう時、その気になると「なりきる」ことがとても上手です)。
チームの目標が「良い」ものとなるためには、それぞれのメンバーにとってそれが意味を持つ必要があります。ぱっと見ただけでその意味が分かるようなエキサイティングな目標を立てることも大事です。
一方、上のケースのように「その人個人が果たす役割(=個人の目標)の意味づけをする」ことも、しばしば必要になります。それによってことで、その人に「見えている景色を変える」ことができます。
(文責:早稲田大学 グローバルエデュケーションセンター(GEC) リーダーシップ開発プログラム 副統括責任者 高橋俊之)