モメンタム・デザイン代表高橋俊之が2013年から関わり現在は教育顧問を務めている淑徳与野中学・高等学校での活動について聞きました。
高橋俊之の淑徳与野中学・高等学校サポートシリーズ全6回。今回は最終回「MSクラス」です。
(インタビューおよび記事執筆: モメンタム・デザイン メディアディレクター 海老原一司)
特区で成功例を作って展開する
海老原: 前回、前々回と創作研究(自由研究)をテーマに話を伺いました。創作研究で狙ったこと、実現したことは、これまで積み上げてきた「インパクト体験棚卸し(キャリア)」や「アクティブ・ラーニング」を土台とし、既存の良いところを引き出した一つの区切りのようにも見えました。今回のお話のMSクラスはそれとは少しタイプの違う動きですか?
高橋: はい。まずMSクラスは2018年に新設された、高校で学年に1つだけ設定されているクラスで、推薦入試やAO入試に対応するクラスです。
海老原: 面白そうなクラスですね。でも、どうしてMSクラスに重点的に取り組まれたのでしょう? その前の創作研究は規模の比較的小さい中学校のものとはいえ、全校ですよね。そこからまたMSクラス1クラスに規模としては絞ったのは何か狙いがあったのですか?
高橋: はい、あります。それは新しい取り組みが機動的にやりやすいことです。特区のようですよね。MSクラスは、新設であることに加え、クラスの目的からして独立性が高いわけです。そのため、これは一度に全体でやるのは難しそう、といったことでも、ここでやってみようというパイロットができる。そこで実績を作って、展開できるものは展開していこう、という考え方ですね。
海老原: なるほど。これまでのお話でも、例えばインパクト体験は、最初は数名でテストし、次の年に学年全体へ。また次の年はカリキュラムに組み込んで学校全体に浸透していくような仕組み、流れ作っていましたよね。今回のMSクラスもMSクラス単体の変革ではなく、そのあとの展開を見据えている。モメンタム・デザインを意識しているわけですね。
高橋: その通りです。またMSクラスの場合は、やってみてMSクラスだけにとどめることも、全体に展開することもできます。また全体展開のタイミングも柔軟性が高くなります。MSクラス内で続いてさえいれば知見は蓄積されて、いざ展開の時にはすぐ活用できますからね。
「情報」のクラスで、今とこれからに役立つ学びを得る
海老原: そう考えるとかなり思い切ったチャレンジもできそうですね。では、MSクラスでは、どんなことをおこなっているのでしょう。
高橋: 「生きる力」そしてそのための「学ぶ力」を高める授業や学び方を組み込んでいます。意識しているのは、「考える力」「人とコラボする力」「自分から動き出す姿勢」を育てることと、日常と学校での学びを結びつけることですね。例えば昨年度(2019年度)は「情報」の授業にアクティブ・ラーニング的な部分を組み込みました。
海老原: 情報の授業ですか。それはまたなぜですか?
高橋: 情報の授業って、学んだことをむちゃくちゃ現実に活かせるじゃないですか。高校生たちがものすごく使っているスマホもLINEもインスタも関係しているし、その便利さも危険も、まさに情報の授業で扱うところですよね。それを教科書からただ暗記しても試験が終わったら消えてしまうけれども、どう付き合って行くと良いのか自分たちで考えたら、「学校の勉強がすごく役に立つ!」ってなりますよね。
海老原: 確かにそうですね。また、これからのビジネスも世の中もAIにしてもIoTといった情報技術によって大きな影響を受ける部分が多くありますよね。
高橋: そう、ただ覚えるのではなく、ちゃんと理解したり自分なりに考えたりすることで、とても役に立ちますよね。そして、その過程で、社会に出てからも役立つ「学び方」が身につけられる。技術面だけでなく「情報ってものと人間はどう付き合っているのか?」を考えることも含めて。
大学生と同じ授業?
海老原: 2020年度は「論理思考とリーダーシップ」の授業をおこなったそうですね。それって、もしかして立教経営BLPでやっているものと同じですか?
高橋: 基本は同じですね。大学生だけじゃなく、社会人とも同じです。よく社会人の方が論理思考について「もっと早く学んでおきたかった」と言われるのを実際にやっている感じです。
海老原: 同じでいけちゃうんですね。
高橋: 基本はそうですね。その点はスポーツに似ているかもしれません。例えば野球というスポーツは大人でも子どもでも一緒ですよね。でも、ベース間の距離とかボールの大きさは違う。論理思考の場合は事例ですね。社会人相手ならばビジネスの事例を使うことが多いですが、高校生だと部活や行事を題材に考えてもらうことが多くなりますね。大学生はその中間です。
海老原: なるほど。部活や行事は直接役立てることもできそうですね。あと「基本は一緒」というお話を伺って思ったのですが、大人が論理思考を学ぶとき、これまでと違う思考方法が必要になる。そのとき今までの固定観念を崩すアンラーンが必要と言われます。高校生の場合、不必要な固定概念がまだあまりインプットされていないので、本質的な論理思考を受け入れやすい、というのはありそうですね。頭が柔らかいうちに論理思考を学んでおく意義は大きいと思います。
高橋: それはあるかもしれません。その意味では本当は小学生くらいからやっておきたいところですね。あと、先ほど「事例を社会人とは変える」と言いましたが、高校生は実は、大人が思っているよりビジネスのことを理解できる、というのが僕の肌感覚です。例えば「メカニズム(仕組み)の工夫をしている事例を身の回りに見つけてみよう」という課題を出すと、ビジネスモデルに着目したものが、じゃんじゃん出てきます。特に自分たちが消費者として普段接しているものについては。
海老原: そうやって裏側の仕組みを理解しておくと「タダだから」と安易に飛びつかなくなるかもしれませんね。
高橋: そう思います。
高橋: あともう一つ、今年特殊だったのは、当初対面で行う予定だった授業が、初めの頃オンラインになったことです。これはけっこう大きな意味を持ったかもしれません。
海老原: それはどういうことですか?
高橋: MSクラスだけは全員がタブレットを持っているんです。それを使ってオンラインでリアルタイム対話型の授業を行いました。他のクラスもオンラインで授業は行っていたのですが、チャットや音声対話までフルに使ったのはこのクラスだけだったので、ここで得たノウハウは今後につなげられそうです。2021年度から中1と高1はタブレットPC(Microsoft Surface)を持つようになるとのことですし。
海老原: 先ほどの全校展開ですね。
海老原: ところで「論理思考とリーダーシップ」の授業はとしさんが担当されたのですか?
高橋: いえ、僕は1回だけで、あとは副校長先生が担当されました。
海老原: すごいですね。普通だとIT系に強い先生か若手の先生になりそうですが。
高橋: そういう先生もサポートしてくださいましたし、若手にいろいろ任せるのも叔与野ではよくあります。でも今回は副校長先生自らが担当されていました。これはこれでとても意味があると思っています。
海老原: 今回は淑徳与野サポートシリーズ最終回です。このあともいろいろ仕掛けは続いていくものと思います。今後どうなっていくと良い、と考えていることはありますか?
高橋: いまの方向にどんどん進んでいけば良いと思います。「考える」「人とコラボする」「自分から動く」力と姿勢を高める方向に進むことですね。そして、学ぶ能力と学ぶ意識の両方がさらに高まる、いわば「学ぶエンジンを搭載する場」になって行ったら素晴らしいですね。