アクティブ・ラーニング

授業より先に学校生活でアクティブ・ラーニング|淑徳与野中学・高等学校

モメンタム・デザイン代表高橋俊之が2013年から関わり現在は教育顧問を務めている淑徳与野中学・高等学校での活動について聞きました。

高橋俊之の淑徳与野中学・高等学校サポートシリーズ全6回を予定しています。今回は第3回「アクティブ・ラーニング」です。

(インタビューおよび記事執筆: モメンタム・デザイン メディアディレクター 海老原一司)

授業より先に学校生活でアクティブ・ラーニング

海老原: 今回は淑徳与野中学・高等学校シリーズ第3回です。第1回では「生徒15年後から考える」で目指したい姿を共有。第2回で「インパクト体験棚卸し」という就活生が行っているようなキャリア教育を中高生に導入したところまで伺いました。
「インパクト体験棚卸し」は入り口としてもやりやすかったとのことでしが、次はどう進んでいったのでしょうか?
高橋: 先生方の関心が高まっていたアクティブ・ラーニングに取り組みました。特徴としては授業より先に学校生活をアクティブ・ラーニングにしていくところから取り組んだことですね。

海老原: 授業ではなく学校生活が対象ですか。意外な感じがしますが、先の話をお聞きする前に、いったん確認させてください。アクティブ・ラーニングの概念って人によって捉え方が異なっているのではないかと思います。改めて、アクティブ・ラーニングとは何か教えていただけますか?
高橋: 重要なところですね。アクティブ・ラーニングをディスカッションを取り入れた授業だと誤解されているケースも多いようです。確かによく使われる手法ですがディスカッションをしていればアクティブ・ラーニングとは限りません。平成29年に出された文科省の「新しい学習指導要領の考え方」ではアクティブ・ラーニングを「主体的・対話的で深い授業・学習」としています。僕自身はアクティブ・ラーニングをリーダーシップと結びつけて「①考える力を高める ②コラボする力を高める ③自ら動く姿勢を高める」学習方法と考えています。
海老原: なるほど。この捉え方だと授業以外にも広がるイメージが沸きます。例えば、クラブ活動や部活なども、アクティブ・ラーニングの場になり得ますね。

授業のやり方を一気に変えるのは大手術

海老原: しかしなぜ授業ではなく授業以外の学校生活から入ったのでしょう? 授業に取り入れる方が先生方にイメージしやすいように思えるのですが。
高橋: 授業に取り入れることへの関心の方が確かに高かったです。先生方にとっても主戦場と感じられますしね。ただ、だからこそ大変だとも言えます。教材もやり方も各先生方として確立しているものを変えるわけですから。大手術をいきなりやるようなものとも言えます。また試行錯誤することへの不安も大きいですよね。
海老原: なるほど。一方、ホームルームや生活のいろいろな局面でなら、少しずつ変えていくこともできると。
高橋: そうなんです。ちょっとした局面で「こうしなさい」と言うのではなく「どうするのが良いと思う?」と質問したり「話し合ってみて」とすることが可能ですよね。また実はすでにそうされている先生もおられるので「そうか、これがアクティブ・ラーニングなんだ」と気づいて他に広げるのもやりやすいんです。そうして感じをつかんだところで授業に組み込んでいけば、あまりアクティブ・ラーニングについてわかっていない段階でいきなり授業を大幅に変えるより効率的にやれます。
海老原: また実はその方が生徒の普段の姿勢が主体的できちんと考えるものになるかもしれませんね。
高橋: 自分個人としてはそれが一番大きいですね。家でもともだちといる時でもそういう姿勢が持てるとベストです。授業よりも学校生活の方がそちらに近いので、そこから始めたかったというのはあります。

アクティブ・ラーニングでの教え方はアクティブ・ラーニングで学ぶべき

海老原: 次に具体的にアクティブ・ラーニングをどう浸透させていったか教えてください。
高橋: 前回同様にこのプロジェクトを推進するチームが作られ、そのメンバーの先生方と進めました。ただ今回の特徴は、このプロジェクト自体をアクティブ・ラーニング的に進めたことです。
海老原: それはどういうことですか?
高橋: アクティブ・ラーニングのやり方をアクティブ・ラーニングでつかんでいただいた、ということです。具体的なやり方をこちらから「教える」のではなく、方向性(考える、コラボする、自分から動く)といくつかの例だけを示して、あとは先生方に、どこで、どんなふうにやるかを考えていただきました。そしてチームの中でそれを共有しアクティブ・ラーニングのこつを引き出すようにプロジェクトを進めました。
海老原:  「これ1冊読めば明日からあなたもアクティブ・ラーニング授業ができる」というようなやり方をしなかったわけですね。それに対する先生方の反応はどうでしたか?
高橋: 正直なところフラストレーションを感じていた先生もおられました。「自分たちもアクティブ・ラーニングしなきゃいけないのは分かるんだけど、型を教えてもらえたら効率的なのにと思ってしまう」と笑いながら言われていた先生もおられました。
海老原:  何か対策は打ったんですか?
高橋:  例を使ってお話ししました。その先生はパソコン等ITに強い方だったので、「先生は新しいパソコンとかソフトとか手に入れたらマニュアルとか読みますか?」と質問したところ、胸を張って「読みません!」と言われました。「適当にいじるのが一番よく分かりますよね」と言うと「はい!」と。さらに「一方で、そういうことをしないで、基礎から教えてくれ、という人がいますよね。でも、手取り足取り教えたのにちっとも理解しないとかありませんか?」というと、また「はい!」と。この時、他にいらした先生方が笑いながら耳を塞いで聞こえないふりをしていました。そうやってパソコンを教わる側だったんですね。
海老原:  そうやって、この段階を乗り越えていったんですね。
高橋:  はい。それからしばらくして、プロジェクトチームの先生方にアクティブ・ラーニングのコツをまとめていただいたり、全先生向けのワークショップを開いていただいたりしました。また徐々に授業の中にも組み込んでいきました。
海老原: 今、学校生活としては例えばどんなところに組み込まれていますか?
高橋: 例えば修学旅行の生徒企画も、生徒が考えたり関わり合いながら決めていく部分が増えていたりします。これはけっこう大がかりなイベントなので意味が大きいですね。

アクティブ・ラーニングの先にあるもの:自走&成長していける力を

海老原: 最後にアクティブ・ラーニングの浸透によって生徒がこうなるんじゃないか、こうなって欲しいというのがあれば教えてください。
高橋: 物事に対して主体的に取り組む姿勢を身につけることと、その中で成長する力を高められるようになることですね。
海老原: 主体的に取り組む姿勢って何で構成されるのでしょうね?
高橋: 内発的動機があると主体的になりやすくかつ持続しますよね。何かを乗り越えることやそれを人とやることをエキサイティングだと感じているのが最も内発的で、これはそういう成功体験をして味をしめるとそうなっていくでしょう。またそこまで「そのもの」が好きでなくとも、自分がやりたいことを成功させるためにはそれが不可欠だと分かっていると、主体的になりやすいと思います。
海老原: そうすると「やりたいこと」がある人ほど主体的になりやすいとなりますね。
高橋: そうですね。だからそういうものを見つけていくことは大事ですね。

海老原: 成長する力を高めるとはどういうことですか?
高橋: ただ頑張るだけでなく、成長する頑張り方をするということです。仕事でもなんでも、経験からすごく学んでいる人と、ただ同じように頑張っている人といますよね。この前者になった方が成長します。
海老原: 一つの経験という個別の事例から、他のケースでも当てはまる学びを引き出すということですか?
高橋: その通りです。またそれをやり続けることで考える力を高めたりコツをつかんだりしてほしいと思います。またそのように学びの場を設計したいですね。