早稲田LDPでは、どうモメンタムを設定しているか

早稲田大学リーダーシップ開発でのモメンタム設計のやり方

モメンタム・デザイン代表高橋俊之に開講中の早稲田大学リーダーシップ開発(理論とスキル)についてTV会議インタビューしました。早稲田大学の授業で、会社名でもある「モメンタム」を設計しているのでしょうか。
(インタビューおよび記事執筆: モメンタム・デザイン メディアディレクター 海老原一司) 

早稲田大学GECリーダーシップ開発(理論とスキル)

海老原: Toshiさん(高橋俊之)は、今年から早稲田大学グローバルエデュケーションセンタ(GEC)ーのリーダーシップ開発プログラム(LDP)担当に着任されました。今は、第1クオーターで「リーダーシップ開発(理論とスキル)」が開講中ですね。
まずは、科目の内容について軽く教えてください。
高橋: その名の通りリーダーシップ開発の「理論とスキル」を学びます。スキルというのは、論理思考とコーチングの2つです。論理思考は、自分の個としての力を高めるためとみんなに動いてもらうため。コーチングは、コーチングのコミュニケーション手法、特に傾聴と質問がリーダーシップに役立つので取り入れています。

早稲田大学リーダーシップ開発理論とスキル

学生が変われば設計方針も変わる

海老原: あれ? 私は立教大学でToshiさんの開発した授業を教えたことがあります。確か、論理思考はがっつりありましたが、コーチングはあまり強調してなかったと思います。立教と早稲田で何か設計を変えているのですか?
高橋: えびちゃんは早稲田の卒業生だからわかると思うんだけど、早稲田の学生は人の話を聞くより自分がしゃべるのが好きな傾向があります。
海老原: ああ、確かに。学生時代の飲み会では私はずっと聞き役でした。みんな自分の言いたいことを言ってましたね(笑)
高橋: もちろん、それは良い面もあります。しかし、早稲田生が「聞く」ことでみんなの力を引き出すようになったら、チームの力は何倍も大きくなると思うんですね。そこで「周りの力を引き出す」意識と力を高めるためにコーチングを取り入れています。
海老原: なるほど。同じリーダーシップ教育でも、集まる学生の特性によってカリキュラムを変えているのですね。
高橋: その通りです。

海老原: 毎週水曜が授業だそうですね。昨日(6/10)は第何回ですか?
高橋: 昨日は第5回でした。前半の論理思考はメカニズム。後半のリーダーシップ理論はモチベーションでした。えびちゃんはピンとくると思うけど、この2つはつながっています。モチベーションを高めるためには必ず人が動くメカニズムが必要になります。そこでまず授業の前半はまず事例から自分で「考えて」人が動くメカニズムを抽出し、後半は理論でモチベーションを整理したり、一般の人は気付いていないけれども研究で明らかになっている興味深い現象の話をしていました。

海老原: おー、そうつながっているんですね。その順序には、これも何か特別な意図があるんですか?
高橋: 最初に「考える」のは考える力を鍛えるのと、頭を耕しておく意味があります。その後で理論によって整理すると、より理解され、定着すると考えています。

海老原: なるほど。順番の話で思い出したんですが、立教だと論理思考はプロジェクト型のクラスの後にやっていませんでした? 理論のクラスはそもそもなかったような。
髙橋: これも早稲田と立教の学生の特性の違いが影響しています。立教だと、大学に入ってすぐプロジェクトをやって企業に提案することに学生達の反応が非常に良いんです。座学の多い高校までの授業と違うな、と。でも早稲田だと「やり方も意味もよく分からないのにいきなりプロジェクトをやるのは納得いかない」という学生がけっこういる、これは立教のリーダーシップ・プログラムを立ち上げられ、今は早稲田のリーダーシップ開発プログラム(LDP)の責任者を務められている日向野幹也先生が気付かれたことで、先生の依頼を受けて「理論とスキル」という科目を開発しました。

海老原:そして順序を逆にしたんですね。
髙橋:そうです。先に理論やスキルを身につけることに対して、早稲田生は退屈などせず、むしろ高い知的好奇心や洞察力を持って取り組んでいます。そうして学んだことを夏学期に活かして問題解決プロジェクトをやります。今度はやり方も意義も分かっているので、ガチで取り組んでくれます。
海老原: うーん、なんか自分のことを言われているような(笑)

生涯学習者へのモメンタムを起こす

海老原: テキストをざっと拝見しましたが、かなり分量が多いですよね。メカニズムで1つ1つを丁寧に教えている印象です。
高橋: 丁寧に教えてはいないですよ (笑) ただ、何を教えるか?より、どうやったら興味を持って自分の中に取り込めるか? を意識して設計しているので、それで量が多くなっているかも。極端な言い方ですが、「人は教えても学ばない」と思っています。自分で学びをつかみにかかる姿勢が大事です。そうしないと試験までは覚えているかもしれないが、本質的には学んでいない、使えない。だからやっていることが面白いこと、「へー」となるようなことから入ることが大事です。
また、どう役に立つのか?を常に意識させます。例えば、マズローの欲求5段階説のようなモチベーション理論を学ぶことにどういう意味があると思う?と。そして、人によって、置かれている状況によって欲求が違うので、こういう理論を分かっているとリーダーシップを発揮する上で役に立つんだ、ということを確認しつつ授業を進めます。

海老原: 会社名でもある「モメンタム」を起こそうとしているわけですね。
高橋: そうですね。LDPでは、単に学ぶだけでなく、生涯学習者になってもらうことを目指しています。自分で自分のエンジンをかけられる、あるいは常にエンジンがかかっている状態です。このモメンタムを起こす仕組みをデザインしていくのが僕の役割だと思っています。

海老原: なるほど。このモメンタムを起こすために、興味深いネタを使うこと(What)、役に立つ理由が腑に落ちること(Why)に気を配っているわけですね。だから、テキスト分量が多いと感じたのかもしれません。

海老原: 最後にDay5で特に意識したことはなんでしょうか?
高橋: 考えること、学ぶことを「面白い」と思ってもらうことです。面白いは、Funでなく、InterestingあるいはExcitingですね。エキサイティングと感じれば、そこにモメンタムができます。
特に早稲田生は、知的馬力はあるので「気づいてもらうこと」が大事です。そしてプライドがある。おもしろささえ感じてしまえば、難しい課題でも「難しいけど、きみらならできるよね?」と言うと、むしろ活き活きと挑戦して行きます。

海老原: うーん、なんか釈迦の手のひらって感じですね(笑) 
髙橋: いやいや、受講生の特性に合わせた設計です。^^