「お金の不安という幻想」紹介 - お金の心配を減らすのに手を打つべきなのは、お金とは別のところ

「お金の不安という幻想」紹介 – お金の心配を減らすのに手を打つべきなのは、お金とは別のところ

最近、おもしろくて、かつとても気付きのある本を読みました。「お金の不安という幻想」(田内学著 2026年)という本です。

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一言で言うと「近年、お金について以前以上に不安になりがちだけど、実は今一番考えた方が良いのはお金じゃなくて人手が足りなくなることだよ」というのがその内容。

これだけだと「ああ、少子高齢化の影響でしょ。徐々にずっしりのしかかってくるのは分かっているけど、個人ではどうしようもないじゃない?」と思ってしまうかも。

しかし本を読んでみるとまず「思っているより早く、しかも介護とかに限らずドカン、ドカン来る危険性がけっこうある」ことが見えて来ます。

「あー、そんな本は読みたくない」と思われそうですが、「ちゃんと手を打っていくと全然変わる可能性がある。また個人にもできる部分がけっこうある」と示してくれているように思います。

「個人にも」とは「社会の変化に個人が影響を及ぼせる」という面と「自己防衛のために」という面の両方があります。そういうわけで、紹介トライです。

かつてと比べて「お金の不安」を感じやすくなった背景

「お金の不安」を感じることはありますか? 感じているとしたらそれは以前と比べてどうでしょうか?

コロナ以前は(それが良い状態かどうかはともかく)給料もあまり上がらない代わりにものの値段も低く安定していましたし、円安や海外との価格差も今ほどではなかったので海外旅行や留学も普通におこなわれていました。

しかし近年はコロナという世界的伝染病の影響、ロシアのウクライナ侵攻やアメリカのイラン攻撃といった戦争の影響、記録的な円安の影響などにより、物価は上がり続けています。しかも海外のインフレが日本以上に大きい結果、海外やインバウンド観光客の多い国内リゾートに行くと、さらにあらゆるものの価格が高いことに驚きます。

一方で、株式市場に目を向けると、26年6月13日時点での日経平均は66,020円でした。ちょうど1年前の2025年同日は38,190円、3年前の2023年同日は32,462円と、3年前に比べて今は倍以上になっているわけです。

「これはNISAやIDECOもフル活用しないといけないかもしれない」と感じているかもしれません。しかし一方で、「こんなに株価は上がっているけど景気が良くなっている感じはしない。暴落する可能性もあるよね」と怖さを感じる人もいるのでは。

つまり、10年、20年前と比べるとお金の不安を感じやすく、お金について考える必要性についてもより強く感じる時代になっているように思います。

「ドライバーが足りなくて荷物の三分の一が運べなくなる」

というように、かつてよりものの値段も株価も大きく動いてお金の不安を感じやすい今、でも、この本「お金の不安という幻想」は「一番の問題はお金じゃない」という問題提起をしています。先ほど書いたように、

「足りないのはカネではなくヒトだ」

と。

戦争や天災(含伝染病)でもモノが手に入りにくくなり、値段が上がりますが、日本ではこれから恒常的に人が足りなくなる、人手が足りないからいろいろなものの値段がかなり上がったり、お金を払っても手に入りにくくなったりする社会がすぐそこまで迫っていると言います。

どういうことか。

本書に紹介されている朝日新聞取材班とリクルートワークス研究所が2023年に発表した「未来予測2040」によれば、2040年の日本では約1100万人もの労働者が不足すると予測されています。その結果何が起きるか?(もし何もしなければ、ですが)

例えば農業を担う人は2020年対比で7割も減り、農作物の価格は高騰します。大工は6割減少してリフォームも進まず、道路や橋の75%が老朽化するのに修繕が進まずあちこちで通行止めが起きかねないと。

介護職員は69万人不足しているので介護を受けられない事態が多発する恐れがあります。ドライバーの不足のため2030年度には荷物の34%が運べなくなり、医療や教育にも人が足りないことは深刻な影響を与えると予想されると言います。

約10年前、保育園が足りないため子どもを預けられず就業できないという待機児童問題から「保育園落ちた日本死ね!」というツイートが話題になったことがありました。そのように「お金の問題というより供給が足りなくて、もっと言えば人手が足りなくて生活必需品すら手に入らないという問題が、あらゆる領域で起きる恐れがある、ということです。

2040年じゃなく、もう今から感じる人手不足

やばいな、とは思いつつ、2040年というと正直ぴんと来ない、という人もいるかもしれません。しかし、今ですら人手不足を実感する状況が個人的な例ですが、たまたま先日ありました。

その時は、車を買い換えようとしていました。欲しい車種も決まったので最初は販売店に新車の見積をもらったんですが、前に車を買った時の感覚と比べてあまりに高かったのでびっくり。程度の良い中古車をその販売店系列のオンラインで探しました。情報もかなり見られてちょうど良い車をすぐ見つけられ、喜んでいました。

ところが納車が、輸送の人手不足で当初の予定よりも2週間延びてしまいました。車があるのは東京の同販売店系列店舗。受け取る予定は横須賀の販売店。なので距離はさほど遠くないですし、さほど輸送量の少ない区間ではないように思います。詳しいことは分かりませんが、既に人手不足は影響を与えているのかも、と感じました。

まあ上のことは一つだけの事例なのでたまたまかもしれません。またマイカーの納車は命を削られるようなことでもありません。しかし2040年にはまだ14年弱ある今から、僕自身が肌感覚で人手不足についての危機感を感じ始めているのは、介護関連です。

町内会長をやっていると高齢の方の情報に接する機会が増えます。

「X班のAさんはゴミ集集所清掃の当番が無理になってきたので免除してあげてください」 「Y班のBさんは認知症が進んで散歩にも最近は出られていないそう」 「Z班のCさんはだんなさんが寝たきりなので長時間出かけられないんですよ」 「W班のDさんは最近お母さんの通院付き添いが大変みたいで」

こういう状況には公的援助が得られる部分もありますが、今後どんどん高齢者が増えていくと予算の問題も出そうですが、その前に人手不足でサポートしきれなくなるのではないかと不安を感じます。

うちのあたりは突出して高齢化している地域ではないと思いますが、それでも町内約200世帯で約100人の75歳以上の方がいます。敬老の日にはお祝いに羊羹を配るので約100本の羊羹を仕入れてきて班長さんに配ってもらいます。しかしその班長さんも75歳を越えてもらう側の人もいます。

お祝いと言えば赤ちゃんが町内で誕生した時にはお祝いをお渡しするのですが、昨年度1年間でその機会があったのは一度だけ。町で一年間に一人の赤ちゃんしか生まれなかったということです。それは子育て世代の人数が少ないことも意味していそうです。

このパートで書いたのは僕一人の体験の話なので、「エビデンス」としては弱いです。でも、人手不足の肌感覚を伝えたくて含めました。

ここまでをまとめると、

  • これからお金の問題以上に大きいのは人手不足の問題
  • 人手不足でモノやサービスの価格が上がってお金の問題を大きくする面もある。
  • しかしそれ以上に問題なのは、人手が不足しすぎるとお金を多少持っていても必要なものがなかなか手に入れられなくなること。

となります。

言い換えると、お金が価値を持つためには「働いてくれる誰か」が必要で、その誰かがちゃんといるようにしないと、お金をがんばって増やしても「欲しいものは手に入らない」ということです。

解決への鍵:人手(人数)× 効率

ではこれにどんな対策はあるのでしょうか?

著者は、人手(人数)×効率 この二つに働きかける必要がある、と言います。

効率とは、少ない人数でやれるようにする、ということです。著者は「シイタケの値段」というおもしろい例を挙げています。シイタケの値段は100年前に比べて0.08倍になっているとか。今スーパーで1パック400円のシイタケは100年前の感覚なら5000円する高級品だったわけです。

なぜここまで安くなったかというとシイタケの栽培技術が劇的に進歩したからで、100人がかりで山に入って収穫していたシイタケを8人で生産できるようになれば、一人当たりの給料は変わらなくとも価格は0.08倍に下がるというわけです。

こういうことは食の領域に多く、食べ物の価格が下がった結果、1920年のエンゲル係数(=家計支出の内、食費が占める割合)は60%だったのが、それから100年経って26%に減ったとのこと。しかも今の方がずっと「ごちそう」を食べている一方、食事を作る手間は減っているのに。自分の祖母とかは鰹節を自分で削っていましたが、今はその部分をやってもらったものを買っていますから高くなってもおかしくない、とも言えますよね。

そう聞いて、「ということは人手を減らすにテクノロジーをどんどん活用すべきでは?」と思った人もいると思います。それはまさにその通りですが、著者が注目するのは「現実にはなかなかそうならないことがよくあるのはなぜか?」です。

その効率化によって少なくとも短期的には損をする人たちがいるから、というのが答えで、とりわけAIは多くの人の仕事を奪っていきそうですから、これまで以上に「効率化」についての議論は大きくなりそうです。

その際「それをAIにやらせてしまって良いのか?」「そこは人間がやり続けるべきでは?」という議論はとても大事です。ただ、前述のようになにしろ人手不足の問題は深刻です。予算の不足よりも人手不足が障害になって生活に必要なものまで手には入らないというとんでもないレベルになりうることを踏まえて行く必要があります。

事務職でやって来たのにある日、「内装・電気工事の仕事に異動してください」と言われたら?

では、この領域で個人ができることは何でしょう?
上のような心理的抵抗を下げて「効率化を推進」することは大事です。本の中で著者は、読者の心理的抵抗を下げる、というかむしろ前向きに捉えてもらうトライをしています。著者は「『役に立つ』ことをすれば『稼ぐこと』につながる社会に戻りつつある」と言います。確かにしばらく前の「モノ余りの時代」は「他の会社と同じようなものを作っていて意味あるのかな…」と思っていた人も多かったでしょう。

確かに今の仕事はAIに取られてしまうかもしれません。でも、これだけ人手が足りなくなる時代になるということは、AIやロボットにできない仕事がたくさんあるわけです。しかも効率化できる仕事は効率化してそこを担当していた人材に人手不足の領域に回ってもらえれば、人手不足解消にとってはベストです。

しかし具体的に考えてみるとどうなんでしょうか。それを考えるのにちょうど良い事例として、次のニュースが目に入りました。26年4月に、コンビニジムchocoZAPで有名なRIZAPグループが建設業界に本格参入すること、そのために最大500人を2026年度中に建設職人に技能・資格取得の支援の上、RIZAP建設へ配置転換することを発表しました。

1年で1,020店舗出店してきた中で培われたノウハウを活かし、2040年に建設業界で約122万人が不足すると予測されているという社会課題に応えるとプレスリリースに記されています。また社外からも広くキャリアチェンジ希望者を受け入れるとあります。(「【RIZAP建設 始動】建設業に本格参入 1年で1,020店舗出店の「ギネス世界記録™」を支えた独自スキームを外販 ~500人のスキル強化で成長を再加速——新たなステージへ移行~」 )

もし自分がRIZAP内で事務職を担当していて、この候補者とされたらどう考えるでしょうか。あるいは他の会社にいて「AIがあれば自分の仕事は減っていくかもなあ」と思っていた時にこのニュースを見たら「応募してみようか?」と思うでしょうか。

もちろん「内装工事なんて全く興味ないし不器用だしなあ」とためらう可能性は大いにあるでしょう(僕は少なくとも最初はそう思いそうです)。しかし、効率化と人手不足の時代にAIに簡単には置き換えられない仕事のスキルを身につけるのは魅力的だと考える人もいそうです。またそれは一つのスキルを身につけるだけでなく「変化に対応する力を高める」ことにつながるかもしれません。

転職しなくても、個人が「人手を増やす側」に協力できること

効率化と並んで大事なのは人手を増やす側です。自動化・無人化・その他の効率化をできない、あるいはすべきでないところの人手を増やす必要があります。

先に述べたRIZAPが建設業に参入するという話は企業としてその対応をしているというものでした。またそういう配置転換や募集に乗っかっていくことは個人として対応することとも言えます。

しかし、誰もがビジネス転換したり転職したりするわけじゃないですね。それでも個人のできるところがあるな、と読んでいて思ったので、それについて書いてみようと思います。それは、そういう仕事の魅力を上げる部分です。

例えば保育士や先生。仕事が多くて大変というのもあるでしょうが、保護者対応の大変さもよく上げられます。最近はモンスター・ペアレントと呼ばれる人たちに対してだけでなく全ての保護者に対して最大限の注意を払いながら対応しているなあということを一保護者としても感じます。

しかしそういう緊張が強すぎると、ものすごく疲れますし仕事の楽しさややりがいを感じる余裕がなくなってきませんか。

そこで保護者が、厳しい要求をする監視者ではなく、パートナーや仲間として振る舞えたら、だいぶ感覚が変わってくるのでは、と思います。難しく考える必要はなくて、心から「ありがとうございます!」「うれしいです!」「良かったです!」と言えることを見つけ、伝えるところからやってみてはと。

そこまでは難しかったらとりあえず笑顔で「こんにちは!」「ありがとうございました」だけでもいいように思います。

そう考えてみると「働きやすさ」や「やりがい」が顧客の接し方によって上がる仕事は他にもいろいろありそうです。例えば介護や医療もそうですし、飲食をはじめとするサービス業でもそうではないかと思います。

「こんにちは〜」「ごちそうさま〜」「ありがとう」だけで変わる部分って、あるのでは。また個人的な感覚ですが、自分がそういう挨拶をできるほど自分も気持ちの良い時間が増えていくように思います。

他にも考えたことはたくさんあったのですが、今回はこのくらいにしておきたいと思います。また機会を見つけてちょこちょこ書いていきたいと思います。

まとめ

  • お金の不安を持ちがちな今の時代だが、実は人手不足の問題の方が深刻。人手が足りないから必要なものが手に入らない時代が近づいている。
  • この問題を解決するには、人手を増やす ✕ 効率を上げる 必要がある。
  • 効率を上げるためにはテクノロジーの導入等、これまでとはやり方を変える必要があるが、変えることへの抵抗は大きくなりがち。しかし「『役に立つ』ことをすれば『稼ぐこと』につながる社会に戻りつつある」と捉えることもできるかもしれない。すると仕事を減らす効率化や新たな領域への挑戦もしやすくなるかもしれない。
  • ビジネス転換も転職もしなくとも、人手不足の領域の仕事がより魅力的になるように顧客として協力することはできる。相手が「働きやすさ」や「やりがい」を感じやすいような接し方をすることで。

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モメンタム・デザイン代表 高橋俊之(たかはし としゆき)