STEAM海外派遣研修成果報告会に行って来ました。
今日は、春に一緒にシアトルに行った都立高校10校の生徒たちの成果発表会でした。僕は事前のオリエンテーションと1週間の研修ツアーの間、ファシリテータを務めていました。
最初に東京都教育庁の担当者とミーティングを持った時に「この研修を通じて何をやりたいんですか?」と質問したら、「教育を変えたいんです」と返って来ました。こういうのを聞くと「おー!」とうれしくなっちゃいます。笑
しかし都立高校生を1週間40名も各校の先生方と海外研修に送り出すのはすごいこととはいえ、各校たった4名が学んだだけでは教育が変わるには時間がかかりそうです。
そこで、研修のやり方について提案をしました。単に学ぶだけでなく、学んだことを活かして各校の生徒たちが実際に学校でSTEAM化プロジェクトを作り実行するようにしませんか?と。
実際、どこまで実行できるかはわからないけど、少なくとも校内で発表できれば、単なる「こんなことを見てきました」という内容より興味を持たれ、それだけ多くの人に印象づけることができるのでは、と思ったからです。またそういう具体的な目的を持って研修旅行に出れば、参加高校生達の「学びセンサー」の感度も上がるだろうと思ったのもありました。
そして研修ツアーから約四ヶ月後の今日、彼らの発表を聞いてみると、僕が予想していた以上のものを作り上げていてびっくりしました。高校生恐るべし。
まずプロジェクトの発表に入る前に各班が、「自分たちはSTEAMというものをなんだと捉えたのか?」を説明していました。単なる定義ではない、これがどういう意味を持ちうるかを自分たちの言葉で表現して。
僕は、タイプの違う参考図書こそ3冊紹介しましたが、オリエンテーションの時にも現地でも一度も「STEAMとはこういうものです」と定義を説明はしませんでした。こちらからは問いと彼らの意見に対する反応。それに対して彼らはずっと考え、観察し、発見をおもしろがって、またプロジェクトを作り上げながら考えてここに辿り着いている。「そうそう、これ。こういう、知識と思考と経験と対話から、自分で理解を深め、自分のものにしていって欲しいんだよ」とうれしく思いました。
そしてプロジェクトの内容も、現地で考えていたものからかなり具体的になっていました。たとえば、体育の授業を得意な人にも苦手な人にも楽しくて有意義なものにしたい!と考えた立川国際高校のチームは、クラスを少人数のチームに分け、その種目を上手になるコツを教えあいながら学ぶ方式を提案し、そのための時間配分案やワークシートまで作成していました。
また、もう一つスゴいなと思ったのが、先生方のフィードバックと、それに対する生徒達の動きです。たとえば立川国際高校のチームに対して体育科主任の先生から
「個人競技の方が成果が出やすくモチベーションUPにつながるのでは」とか、
「もう少しSTEAMの科学的な部分と絡められるといい」とか、
「少人数で練習する時間をなるべく取ると良さそう」
といったフィードバックをされたと発表で説明されていました。生徒達の提案の本質を活かしながら、それをもっと成功させるアドバイスをしてくださっているわけですが、これはなかなかできることじゃないと思うのです。
自分がプロであり、一生懸命考えて来ている領域について、高校生達が何か考えて提案してきたら、「いや、そんな簡単なもんじゃないんだよ」とか言いたくなっても不思議はないと思います。でもこの体育科主任の先生は、むしろSTEAMの良さと適性を的確に捉えてアドバイスしてくださっています。
一方、先生からのフィードバックは肯定的なものばかりとは限りません。たとえば、文化祭における「投資教育」の提案をした両国高校のチームには、結論としては文化祭での採用は難しいというものでした。
しかし高校生チームも先生方も、ここで終わっていないのがスゴいところ。チームは文化祭がダメなら探究の授業の枠組みを使って実現することを考え始めました。それも、他の生徒たちがやっている探究プロジェクトを巻き込んだ企画にしようとしています(おもしろい内容なのですが、既に長くなっているので内容説明は、やめておきます)。それに対応してくださっている先生方も素晴らしいと思います。
他の学校がやっているプロジェクトも、お年寄りの原宿と言われる巣鴨の商店街と高校生をつなぐことを考えている文京高校のチームとか、新宿という地の利を活かして海外からの観光客との交流を考えている新宿高校のチームとか、それぞれとても興味深いものでした。これらが各学校でおもしろがられて、徐々に広がって行くと良いなあと思っています。
さて、こういう話をすると「非常に意欲も知的ポテンシャルも高い生徒達には良いが、普通の生徒には難し過ぎて、従来の授業よりも学びが減ってしまうのでは?という心配の声が出ます(先生方からも、保護者からも)。
確かに、全く同じやり方では、ちょっとハードルが高すぎるかもしれません。またここに寄り添う先生にも高いスキルや、知識詰め込み方のunlearningが必要になることも難しさを増す、とも言われます。
ただ最近、ここに対するヒントがいろいろ見えて来ていると感じていて、まもなく夏休みなので、これをまとめてみたいと思っています。ワクワクする夏休みの宿題かな。笑
(文責:早稲田大学 グローバルエデュケーションセンター(GEC) リーダーシップ開発プログラム 副統括責任者 高橋俊之)